最新記事

イスラム国

IS指導者爆死でもテロの脅威は増すばかり?

ISIS Already Has New Leader, Baghdadi May Not Have Been Running Group

2019年10月28日(月)20時00分
トム・オコーナー、ナビード・ジャマリ

ISの最高指導者バグダディは爆死したが Islamic State Group/REUTERS

<最高指導者バグダディは既に象徴的な存在に過ぎなかったという証言もある。トランプが犯した失策はむしろISを勢いづかせている>

10月26~27日に遂行された米軍の作戦によって、過激派組織イスラム国(IS)の最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディとその報道官アブ・アル・ハッサン・アル・ムハジルがシリアで死亡した。だが本誌が得た情報によれば、ISでは既に後継者が決まっている。

後継者と目されるのは、アブドラ・カルダシュ、別名ハッジ・アブドラ・アル・アファリだ。今年8月には、バグダディが彼を組織の「イスラム担当」責任者として指名した、という情報が広がった(ISは公式には認めていない)。

カルダシュはサダム・フセインの下で従軍したこともある元イラク軍将校で、人物像はほとんど知られていない。だが中東の情報機関に属するある当局者が本誌に語ったところでは、カルダシュがバグダディの後を継ぐ可能性もあったが、バグダディが死んだ今となってはわからない、と言う。

米陸軍特殊部隊の攻撃で追いつめられ、自爆ベストを爆破させるという形で死を迎えたバグダディは、国際テロ組織アルカイダのイラク支部を率いていたが、その後、カリフ制国家の樹立を目指してISを創設した。だが、バグダディの役割は既に象徴的なものになっていた、とこの当局者は言う。

「バグダディはもはや名目上の指導者だった。作戦や日々の活動には関与していなかった。バグダディがやっていたのは、イエスかノーを言うことだけで、計画を立てたりはしなかった」

<参考記事>米軍に解放されたISの人質が味わった地獄
<参考記事>ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

今度の事件を取り巻く謎はまだまだ多い。バグダディは、シリアのバリシャ村の隠れ家で何をしていたのか。バリシャ村は、ISのライバル組織ハヤト・タハリール・アルシャムと関係が深い場所だ。ISの最高指導者がこの地の奥深くに潜伏していたのは不自然だ。

ハヤト・タハリール・アルシャムを率いるアブ・ムハマド・アル・ジャラニは元バグダディの側近で、のちにアルカイダ系のイスラム過激派組織、ヌスラ戦線(ハヤト・タハリール・アルシャムの前身)を結成した。もっとも、両組織とも戦いでは負け続きで支配地域は限られていた。

だが、サダム・フセイン政権を倒すために米軍がイラクに侵攻すると、情勢は一変する。バグダディは、イラク戦争による混乱に乗じて強力な戦闘員のネットワークを確立した。ISの快進撃の始まりだ。


逃れ続けた最高指導者

ISがイラクとシリアで勢力を拡大したため、アメリカは2014年に多国籍軍を編成して両国のISの支配地域に攻撃を開始した。イランはISと戦うイラクとシリアの両政府を支援した。

2015年には、ロシアもシリアの戦いに参戦。アメリカはクルド人を主体とする反政府連合組織「シリア民主軍」への支援を強めていった。シリア政府とシリア民主軍はその後、対抗しながらISを打ち負かす掃討作戦を展開したが、バグダディは地元勢力や他国の軍からの追跡を逃れ続けた。

ドナルド・トランプ米大統領は世界の指導者として初めて、バグダディの殺害を明言した。だがここ数年、アメリカをはじめ様々な国の情報当局はバグダディの居所と生死について矛盾した情報を伝えていた。

シリア北東部のジャジーラ地方やイラク東部にいるという情報が幾度となく流れ、空爆で負傷したためにISを率いることができなくなったとも言われた。

今年4月にはバグダディとみられる人物のビデオがインターネットで公開されたが、負傷している様子はなかった。バグダディの姿が公になったのは、2014年にイラクのモスルにあるモスク(イスラム教礼拝所)で演説する姿が公開されて以来のことだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中