欧州中央銀行の政策をゆがませる、インフレ目標2%の呪縛
THE EUROZONE’S 2% FIXATION
何が何でもインフレ目標を達成すべきだという主張の論拠は単純だ。低インフレは(潜在的な)経済停滞の兆候だ、というのである。経済が成長し、失業率が下がっていても、政府と中央銀行はこの理屈で財政出動と金融緩和を正当化しようとする。
だが残念ながら、この理屈は通らない。近年では、ほぼどの国でも経済の停滞と物価上昇率の相関関係は見えにくくなっているからだ。インフレ率が2%に届かないからといって大盤振る舞いをする理由にはならない。
にもかかわらず、今や拡張主義的な見解が大きな影響力を持っている。特にこの何年か金科玉条のように「財政規律」が叫ばれた欧州では、各国政府はようやく支出拡大の理由を見いだし、世論もそれを歓迎している。
ECBもそれを後押ししている。公然とは言わないまでも、より積極的な財政政策を呼び掛けることで、金融政策のみではインフレ目標を達成できないことを暗に認めているのだ。
ECBの政策的なブレのせいで公的債務は拡大する。超低金利のおかげで当面は破綻を免れても、金融危機を招くのは時間の問題だろう。今度ばかりは違うって? さて、どうなるかは見てのお楽しみだ。
<本誌2019年10月22日号掲載>
※10月22日号(10月16日発売)は、「AI vs. 癌」特集。ゲノム解析+人工知能が「人類の天敵」である癌を克服する日は近い。プレシジョン・メディシン(精密医療)の導入は今、どこまで進んでいるか。