最新記事

タイ

ウルトラマンブッダに賛否両論 微笑みの国タイ、仏教界も告発と容認で二分

2019年9月13日(金)17時01分
大塚智彦(PanAsiaNews)

警察に告発、沈静化呼びかけと、仏教徒の反応分かれる

しかし、一部の仏教徒や保守系政治家などによる批判は止まず、「地の力・仏教徒」を名乗る仏教徒団体は「学生の謝罪は遅すぎる」「絵の展示、公開には学生一人の関与ではできないはずだ」として作成者の女子大生に加えて、大学の教官、展示会場の責任者、イベント関係者、さらに女子大生をネットなどで支持した芸術家らを刑法206条の「個人や組織による宗教に関する侮辱の禁止」に違反しているとして警察に告発した。

地元紙などによると警察はこの訴えをとりあえず受理したものの「対応は上級機関と検討する」としているという。

その一方で地元のスワン・カウ寺の高僧は「問題の絵はブッダや仏教徒を侮辱するものではない。若い学生が親しみのあるポップカルチャーを利用して描いたに過ぎない。作者は謝罪もしており、若い芸術家の芽を摘むようなことがあってはいけない。誰もが寛容の精神で許し合うことが大事だ」と指摘して事態の沈静化を呼びかけている。

ショッピングモールから撤去された絵はバンコク在住のタイ人が譲り受け、9月11日にネットでオークション販売したところ、12日には50万バーツ(約180万円)で落札されたという。落札者は明らかにされていない。

オークションにかけたこのタイ人について「ネーション」は、売り上げの90%は地元病院に寄付し、10%は作者の女子大生に渡したいと話していると伝えた。

国民の90%以上が仏教徒という仏教国タイでは仏教施設や寺院を訪れる際は観光客も肌の露出を控えたり靴を脱いだりするなど「仏教への敬意」を求められることが多く、イラストや絵画、写真などによる仏教、ブッダの表現に関しても仏教徒が不快に思わないような特別な配慮が求められている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中