香港の運命を握るのは財閥だ
Being “Like Water”
もちろん林鄭も、中国政府の出先機関である駐香港特区連絡弁公室から直接に命令されることはない。目的なり目標なりを示されるのみで、あとは本人が最善を尽くすしかない。
つまり、指導者なき抗議活動が相手にしている香港政庁の指導者に実権はなく、遠く離れた北京政府の指示に従うしかないが、あいにく北京は具体的な命令を出さず、それでいて妥協ということを知らない。
中国は香港でもトップダウンの支配を試みた。思想とエリート層を支配すれば国民全体を従わせることができると考えたからだ。しかし香港は違った。今どきの世界のご多分に漏れず、住民は政府機関や伝統的な指導層を全く信用していない。
抗議の若者たちはこの現実を百も承知だ。中国政府の側もそれを承知していて、だからこそ香港に大人数の調査チームを送り込み、地元政財界のエリート層から事情を聴取している。
いったい誰なら事態収拾に向けた手を打てるのだろう。期待できるのは香港財界の大物たちか。彼らは基本的に体制側だが、彼らの会社や資産はまだ抗議の標的になっていない。
香港の上流階級と並んで、財閥系の大物たちにはまだ一定の影響力がある。この夏の混乱で一定の損害を被ったのも事実。彼らに政治的な権限はないが、社会的・経済的な面で彼らにできることはあるはずだ。
その筆頭は土地問題だろう。デモ隊はこんな落書きを残している。「ベッド1台がやっとの部屋にしか住めない私たちが、独房送りを恐れると思う?」
香港の不動産がべらぼうに高いのは、地価下落で損をしたくない財閥や富豪が土地を手放さないからだ。土地の放出は、経済・社会的開発がデモ隊の怒りを鎮める唯一の手段と考える中国政府の見解に一致しそうだ。
それに手詰まり感もある。公立病院で入院費の約90%が公的資金で賄われていることからも分かるように、香港の社会保障や福祉サービスはかなり充実している。ということは、その方面の支援をこれ以上増やしたところで、事態が好転するとは考えにくい。
鍵となるのは財界の動き
選択肢は2つ。1つは財閥が自ら土地を差し出すか、中国政府が(マカオと珠海市の間で行ったように)香港と隣接する広東省政府に掛け合って広大な用地を提供させ、公共住宅を建設するというもの。これなら財閥も開発を受け入れやすい。