建国70周年に影を落とす中国共産党の憂鬱
China’s Coming Crisis
これらの要因はことごとく、既に消滅するか、以前ほどの力を失っている。非効率な国有企業の民営化など、大胆な経済改革を実行すれば経済成長を持続できる可能性もあるが、これまで改革は掛け声倒れに終わってきた。国有企業が一党支配の基盤であることを考えると、本格的な改革が実行されることは考えにくい。
国内政治の変質も気掛かりな要素だ。習体制の中国共産党は、それまでうまく機能していた政治の在り方──現実主義、イデオロギーに関する柔軟性、集団指導体制──を捨ててしまった。最近は、イデオロギーの画一性、規律の徹底、恐怖に基づく強権支配といった要素が目立つ。
このような政治の下では、取り返しのつかない政策ミスが発生するリスクが高まる。もちろん、中国共産党がやすやすと権力を手放すわけがない。国民のナショナリズムをあおり、反対勢力に対しては締め付けを強めるだろう。
それでも、この戦略により共産党の一党支配体制が苦境を脱することはない。国民のナショナリズムを刺激すれば、一時的には共産党への支持が強まるかもしれないが、エネルギーはやがてしぼむ。人々の生活水準が向上し続けなければ、それはおそらく避けられない。
それに、権力維持のために脅しと暴力に依存する体制は、大きな代償を払わされる。経済活動が停滞するし、人々の抵抗が強まり、治安維持のためのコストが膨れ上がる。国際社会でも孤立する可能性が高い。10月1日の演説で習がこのような暗い見通しを語ることはないだろう。
しかし、いくら習が愛国的な言葉を並べ立てても、共産党の支配体制が毛時代以降で最も揺らいでいるという事実は変えられない。
From Project Syndicate
<本誌2019年10月1日号掲載>
※10月1日号(9月25日発売)は、「2020 サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。