パプアで再び衝突、警察官ら21人死亡 各地で政治不信デモも、事態は混沌と
ワメナでは連続放火に衝突、空港閉鎖
一方同州中部のジャヤウィジャヤ県ワメナでは23日午前11時ごろ、パプア人デモ隊が暴徒と化し政府庁舎や公共施設などに次々と放火、一部で警察部隊と衝突した。現地で治安維持に当たる陸軍の地域司令官はコンパスTVやアンタラ通信に対して17人が死亡したことを明らかにした。
ワメナでは23日午前に「非パプア人の高校教師がパプア人を侮辱する発言をした」との情報が出回り、これに怒った高校生を中心とした学生が市内で抗議のデモを始め、一般市民も加わり大規模なデモに拡大した。こうしたなか、一部の参加者が市議会建物や地方政府施設などに放火する事態に発展。事態を収拾しようとした治安部隊と衝突したという。
この結果、放火された建物の火災に巻き込まれて17人が焼死したほか、65人が負傷しているという。
陸軍現地司令官は「死者17日のうち1人はパプア人ですでに家族が遺体を引き取ったが、残る16人は州外からの移民とみられ、遺体はまだ引き取り手がない」と話している。
ワメナでの騒動の原因となった「高校教師による差別発言」はその後の調査で偽情報であることが判明したため、治安当局はパプア地方でのインターネット制限を再度実施するとしている。
ジャヤプラの航空当局関係者によると、23日はワメナでの騒乱状態のためワメナに向かう定期航空便が運航停止となり、ワメナ空港は終日閉鎖されたという。
治安攪乱狙う扇動者の存在示唆
パプア地方議会のティモシウス・ムリブ議長は「コンパス」紙に「ワメナでのデモ隊の中に騒乱を扇動する人物がいて、高校生らを煽った可能性がある」との見方を示した。
これが事実とすると、パプアでの社会秩序攪乱を意図した何者かが騒乱の背後で暗躍し、治安部隊による実弾発砲などの強権的鎮圧を正当化することを狙っているものとみられ、事態がさらに深刻化する懸念がでている。
インドネシアでは私服の警察官や兵士、金銭で雇われた反社会的組織メンバーなどがデモや集会に紛れ込んで事態を悪化させる扇動役を果たし、治安部隊の反撃を正当化する手段はこれまでにも使われた「常套手段」とされており、情報を完全に否定できない側面がある。
8月17日に東ジャワ州スラバヤで起きたパプア人学生寮での治安部隊や市民による差別発言に端を発したパプア騒動はジョコ・ウィドド大統領の懸命の沈静化政策にも関わらず、事態は一向に改善されず、さらに複雑化、過激化している。
首都ジャカルタや中部ジャワのジョグジャカルタ、東カリマンタンのサマリンダ、南スラウェシのマカッサルなどでは同じ23日、国会による汚職撲滅委員会(KPK)の権力を弱体化する法案の可決、報道や表現の自由を制限する懸念のある刑法改正案をめぐり、採決を急ぐ議会と採決延期を求める大統領の対立などに対する大学生の大規模な「国会議員不信任」のデモが繰り広げられた。
ジャカルタ市内では国会前には約1万人の大学生が集まり、警備の警察部隊と対峙、緊張状態が続いているほか、KPK本部前でも連日デモ隊による抗議集会が開かれるなど騒然とした空気がインドネシア全土を覆い始めている。
ジョコ・ウィドド大統領は10月の新政権発足を前に国内治安情勢の安定、騒乱の沈静化で難しい対応を迫られている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など