最新記事

カシミール紛争

「自治権はく奪」でインド化強行のモディ政権と戦うカシミールの若者

2019年8月26日(月)17時50分

8月20日、インドが実効支配するカシミール地方最大の都市スリナガルでは、人口が密集するスーラ地区の入り口を、若い男たちが一週間以上、24時間体制で警戒している。写真は12日、スリナガルでインド政府への抗議活動に参加する住人(2019年 ロイター/Danish Siddiqui)

インドが実効支配するカシミール地方最大の都市スリナガルでは、人口が密集するスーラ地区の入り口を、若い男たちが一週間以上、24時間体制で警戒している。

12カ所ほどある地区への入り口には、レンガや金属の波板、材木や丸太を使ったバリケードが築かれている。石を手に「武装」した若者たちが、こうした障害物の後ろに集まる。インドの治安部隊や武装警察の侵入を阻むためだ。

「われわれの声はどこにも届かない。内側から爆発しそうだ」

イジャズと名乗る25歳の青年は、拘束を恐れながらもこう話した。

「もし世界もわれわれの言うことに耳を貸さなかったら、どうすればいいんだ。銃を手にするか」

インド政府は5日、国内で唯一イスラム教徒が過半を占めるジャム・カシミール州の自治権はく奪を決めた。そして、人口約1万5000人のスーラ地区は、これに対する抵抗活動の中心地となりつつある。

そこはインド治安部隊にとって事実上の「立ち入り不能」地区と化しており、モディ首相のヒンズー至上主義政権による対カシミール強硬策の「本気度」をはかるバロメーター的存在になっている。

インド政府は自治権はく奪について、カシミール地方を完全にインドに同化させ、汚職や縁故主義を撲滅し、発展を加速するために必要だと説明。モディ首相は、発展が平和の存続とテロ掃討の鍵だとしている。

だがスーラでは、モディ氏の動きを支持する人はほとんどいない。ロイターはこの1週間で住民数十人に取材したが、首相のことを「独裁者」と批判する声が多く聞かれた。

自治権を停止する憲法改正により、住民以外でもジャム・カシミール州で不動産を購入したり、この地方を統治する政府で働けるようになる。カシミールに住むイスラム教徒の中には、ヒマラヤの麓にある豊かな土地が数で勝るヒンズー教徒に乗っ取られ、カシミールのアイデンティティや文化、宗教が抑圧されると懸念する人もいる。

「ここで『管理ライン(LOC)』を防衛していような気持ちだ」と、イジャズさんは言う。LOCとは、カシミール地方をインド実効支配地域とパキスタンの実効支配地域に分断する事実上の国境だ。カシミール地方は、核保有国であるインドとパキスタンの長年の「発火点」であり、両国は領有権を巡って1947年以降2度戦争している。

スーラ地区の住民によると、先週以降、武装警察との衝突で数十人が負傷したという。拘束された人数は不明だ。

州政府やインド内務省は、取材の求めに応じなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中