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女子学生のレスビアン小説、大学当局が削除命令 多様性と寛容が消えゆくインドネシア

2019年8月16日(金)18時44分
大塚智彦(PanAsiaNews)

LBGTへの差別、迫害がまかり通る社会

インドネシアは約2億6000万人の人口の約88%をイスラム教徒が占めるものの、イスラム教は国教ではなく、キリスト教、ヒンズー教、仏教など他宗教をも認めることで国是の「多様性の中の統一」を維持している。

またインドネシアでは、イスラム法(シャリア)が適用されているスマトラ島北部のアチェ特別州が唯一法律で「同性愛」を禁じているものの、それ以外の州では法的にはなんら問題ではない。

ところが最近は圧倒的な多数派のイスラム教徒による「LGBTは許されない」「同性愛は精神的な病気であり矯正されるべき」という偏見に満ちた主張による性的少数者への差別や迫害事件が各地で相次ぐ事態となっている。

2019年5月には、中部ジャワ警察に10年勤続した現職警察官が、同性愛者であることを理由に解雇に追い込まれ、不当解雇をスマラン行政裁判所に訴えたものの敗訴している。

また首都ジャカルタに隣接するデポック市では2019年に入って「LGBTの権利を制限」する条例の制定が市議会で検討される動きがでている。同市では近年HIV感染者が増加しており、HIV感染と同性愛を結び付け、条例案にはLGBTの人びとの行動監視や公の場での行動規制が盛り込まれるという。

こうした条例案は誤解と偏見に基づくとして一部会派から反対の声が出ているものの「多数派」による議会での条例案議題化の動きは止められない状況という。

一方、スマトラ島西スマトラ州の州都パダンでは市長が「LGBTの市内からの根絶」を2018年に宣言し、これまでに10人以上の同性愛者が身柄を拘束されているという。
首都ジャカルタ市内でも2017年10月に同性愛者が集まるサウナ施設に警察が一斉に立ち入り捜査し、同性愛者58人を反ポルノ法、麻薬取締法違反容疑などで逮捕する事件が起きた。警察は「近隣の住民から不安の声が寄せられたため」と説明して捜査の正当性を訴えた。

性的少数者ではないがUSUのあるメダンでは2019年4月にはイスラム教の祈祷施設「モスク」から流れる祈祷を呼びかける音声がうるさいと不満を表明した仏教徒の女性が「宗教冒涜罪」に問われ、禁固18カ月の実刑判決が最高裁で上告却下されて確定する事件も起きるなど、宗教的少数者への差別も深刻化している。

イスラム優先と「多様性・寛容」の相克

4月の大統領選挙で接戦の末、再選続投が決まったジョコ・ウィドド大統領は2024年まで政権を担当することになった。

しかし、圧倒的多数のイスラム教徒により近年揺らいでいる国是の「多様性の中の統一」やその統一を維持するための「寛容の精神」をいかに復活させ、少数者への差別を排除していくかその手腕が問われている。

大統領選を共に戦ったマアルフ・アミン次期副大統領は穏健派とはいえイスラム教団体の幹部であり、イスラム指導者の重鎮でもある。それだけに自身はイスラム教徒でありながらも宗教的少数者、性的少数者さらに社会的弱者への理解を示してきた大統領として「その理解をいかに具体的な行動に結びつけ公平で公正な社会を実現するか」という難しい課題に直面している。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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