最新記事

熱波

WHO「35度以上は扇風機で熱中症を予防できない」 と注意を促しているが.....

2019年8月9日(金)18時00分
松丸さとみ

乾燥した環境での扇風機は逆効果 Jon Nazca-REUTERS

<世界保健機関(WHO)は、猛暑から体を守るガイドラインとして、「気温35度以上の場合、扇風機の使用では熱中症は予防できない」と注意を促しているが......>

WHOは「35度以上は扇風機で熱中症を予防できず」

連日の猛暑が続いている。こんなときは冷房や扇風機など、少しでも涼しくなれるものなら何でも活用したいところだが、扇風機の使用には実は少し注意が必要なようだ。世界保健機関(WHO)は、猛暑から体を守るガイドラインとして、「気温35度以上の場合、扇風機の使用では熱中症は予防できない」と注意を促している。

米国環境保護庁も、室内温度が32度以上になったら、扇風機を自分に向けてはいけない、としている。さらに、「熱指数」が37.2度以上の環境で扇風機だけを使用している場合、体温よりも高い温度の風にあたることで、熱によるストレスを体に与えてしまうと警告している。この「熱指数」とは、温度と湿度で算出するもので、iPhoneのお天気アプリなどで「体感温度」と表示される、あの温度だ。

そこで、こうした扇風機使用のガイドラインの正当性を調べるために、豪シドニー大学の研究者らが実験を行なった。すると、扇風機が体の負担や不快感を緩和するか逆に体への害となるかは、気温そのものよりも湿度が大切であることが分かった。湿度が低いところで扇風機を使うと、むしろ暑く感じる上に心臓に負担がかかるのだという。実験結果は、米国内科学会が発行する学術誌アナルズ・オブ・インターナル・メディシンに掲載された。

乾燥した環境での扇風機は逆効果

実験を行なったのは、シドニー大学にある熱人間工学研究所のオリー・ジェイ准教授率いるチームだ。実験室で熱波を再現し、核心温度(深部体温とも呼ばれるもので、外の温度の影響を受けにくい体の内部の体温)、心臓血管部分への負担(心拍数と血圧)、脱水リスク、快適度といった要素に対し、扇風機がどう影響するかを調べた。

実験では、さまざまな気象条件を再現できる人工気象室と呼ばれる設備で、「非常に暑くて乾燥した環境」(気温47度、湿度10%、熱指数46)と「暑くて湿度が非常に高い環境」(気温40度、湿度50%、熱指数56)という2種類の熱波を作った。これらは、2018年7月の米カリフォルニア、1995年7月の米シカゴ、2017年7月の中国の上海など、過去に実際にあった熱波を再現したものだ。12人の男性に、1日に2時間ずつ計4回、こうした環境に入ってもらった。

結果は、扇風機を湿度の高い中で使用した場合、核心温度が下がり、心臓血管への負担が軽減され、快適度も向上した。一方で、熱指数が低い、乾燥した環境で扇風機を使用した場合は、核心温度も心臓血管への負担もぞれぞれ上がり、実験参加者はより暑くなったように感じたという。実験時には、台の上においた扇風機を使用したが、ジェイ准教授は、天井に付いているシーリングファンでも効果は同じだと話している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中