最新記事

北朝鮮

ロシアで歓迎される北朝鮮からの出稼ぎ労働者

2019年8月1日(木)17時10分
テジョン・カン

金正恩党委員長とプーチン大統領は初の首脳会談を実現させた(4月25日、ウラジオストク) SERGEI ILNITSKYーPOOLーREUTERS

<長引く制裁と中国との関係の微妙な変化で、北朝鮮は新たな後ろ盾と外貨獲得先をロシアに求める>

3月下旬に国連に提出された中間報告書によると、ロシア国内で働く北朝鮮労働者は17年の3万23人から18年は1万1490人に減った。両国の関係強化が懸念されるなか、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議に従って北朝鮮労働者の半数以上を送還したと、ロシアは説明している。

もっとも、実情は異なるようだ。北朝鮮情勢を伝える韓国のニュースサイト、デイリーNKによると、ロシアには今も北朝鮮から労働者が流入している。彼らは正規の労働ビザではなく、研修生や学生用のビザで入国しているとみられる。

北朝鮮からの出稼ぎ労働者の多くは、極東のハバロフスクやウスリースクに送られている。人数を正確に把握することは難しいが、かなりの人が建設現場や工場、伐採地で働いているようだ。

「正規の労働者ビザを取得してロシアで働く(北朝鮮労働者の)人数は減っているかもしれないが、学生ビザなど異なる資格で入国している可能性はかなり高い」と、デイリーNKは指摘している。ロシアの労働条件は劣悪なことで知られているが、それでも多くの北朝鮮労働者が好んで出稼ぎに行く。自国で働くよりはるかに多く稼げるからだ。

北朝鮮労働者の中でもスキルが高く、ロシアで3年以上働いている人の一部は、北朝鮮当局に1000~1300ドルを支払って「忠誠を示す」ことを条件に、いわばフリーランスとして働くことが認められている。ロシアで月2000~3000ドルを稼ぐ者もいる。ロシア企業の側も、安価でスキルが高く、手先が器用な北朝鮮労働者を歓迎している。

ロシアから北朝鮮に向かう貨物列車の本数も増加している。4月にウラジオストクで初の首脳会談が行われた後、その数は目に見えて増えているようだと、観測筋は言う。

人民元不足のリスクも

国連安保理の制裁によって、北朝鮮経済は深刻な状況に陥っている。北朝鮮当局が外貨を稼ぐために、あらゆる方策を取るのは当然だろう。

しかし、なぜロシアなのか。ソウルを拠点とするシンクタンク、国家安保戦略研究所のイム・スホ研究員によると、北朝鮮の国外から入る米ドルや中国人民元などの外貨は、制裁によって減少している。その結果、国内で外貨の代わりに北朝鮮ウォンを使う人が増えている。

デノミを断行した09年の通貨改革が失敗した後、北朝鮮ウォンは暴落した。しかし、外貨不足のおかげで、市場で使えるレートまで持ち直している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中