今年の大卒は安定第一? それでもジェネレーションZが秘める大きな可能性
GENERATION Z GETS TO WORK
不安をあおっているのが、高額の授業料に見合う給料を稼げるのかと心配する親であるのは間違いない。オーンドーフによると、今やセンターのスタッフは保護者向けの入学相談や新入生への説明会で大忙し。入学希望者と保護者のキャンパス見学では、「投資収益率」といった昔ではあり得ない言葉も飛び交うそうだ。
大卒者の割合が増え、安定した雇用をめぐる競争が熾烈になった今、学位だけでは就職の武器にならない。「大学に入れば安心という時代ではない」と、30年のキャリアを持つオーンドーフは言う。「学生は年上の世代が多額のローンを背負って卒業し、厳しい就職戦線に向かったのを見ている。インターンの実績を積まなければ自分を差別化できないと思っている」
Z世代の不安には複数の要因が考えられる。Z世代の本の執筆のために2年間調査したスタンフォード大学のロバータ・カッツは、彼らの不安は社会の変化が速く厳しいからだと考える。非正規雇用が増えたため、どんな仕事に就いても、いつまで働けるかは見えにくくなっている。ネット環境の発達で、どこでも働ける代わりに、雇用は不安定になった。
Z世代はこうした問題に苦しんでいる。「これまでにない問題と取り組んでいる彼らは大したものだ」と、カッツは言う。「彼らは全く違う環境で育っている。気候変動をよく理解しているし、銃がもたらす現実の脅威と向き合っている。しかも変化は、私たちが経験したものより速い」
メリーランド大学キャリア支援センターのケリー・ビショップは、親の姿勢が影響していると考える。ミレニアル世代の親は、たいてい第二次大戦後に生まれたベビーブーム世代だった。特権とパワーに恵まれたミー・ジェネレーション(自己中心世代)だ。
その姿は67年の映画『卒業』がよく捉えている。ダスティン・ホフマン演じる若者は、両親の友人である年上の女性と関係を持つが、彼女の娘に恋をしてしまう。事態はややこしくなるが、最後は娘の結婚式場に乱入して2人で逃げ出し、ハッピーエンドとなる。そんなベビーブーム世代は、わが子にも「失敗を恐れず、欲しいものを手に入れろ」と勧めたはずだ。
一方、Z世代を育てたのは、60年代初めから80年代初めに生まれたX世代。彼らを描いた代表的な映画は94年のベン・スティラー監督の『リアリティ・バイツ』で、大学を出た若者たちは退屈で無意味な仕事に悩み、エイズ感染を恐れていた。
「X世代には、幼い頃『鍵っ子』だった人が多い」とビショップ。「だから、失望したくなければ我慢強くなり、物事のコツを学び、用心深く気を配らなければならないという感覚を自然と身に付けた」