最新記事

テクノロジー

「ルーク」と名付けられた最先端の義手が開発される......意のままに動き、触覚もある

2019年7月29日(月)18時15分
松岡由希子

ルーク・スカイウォーカーにちなんで名付けられた最先端の義手 Mobius Bionics-University of Utah

<ユーザーの意のままに動き、触覚もある最先端の義手「LUKEアーム」が米ユタ大学の研究チームによって開発された......>

ヒトの手の触知覚のメカニズムを模倣した最先端の義手「LUKEアーム」が米ユタ大学の研究チームによって開発された。ユーザーの意のままに動き、触覚もあるのが特徴だ。2019年7月24日、学術雑誌「サイエンス・ロボティックス」において研究成果をまとめた論文が公開された。

Greg-Clark-LUKE-Arm.jpgUniversity of Utah researchers develop LUKE Arm-University of Utah

「LUKEアーム」とユーザーの神経をつなぐ

義手をよく機能させるためには触覚が必要だ。缶詰、卵、ブドウなど、物の形態によって、握ったり、持ち上げたりする際に最適な握力は異なる。つぶしたり、壊したりすることなく扱うために最適な握力を判断するうえで、触れているものの固さや柔らかさ、重さなどを知覚することは不可欠だ。

金属製のモーターとパーツで構成され、シリコン製の透明な人工皮膚で手を覆われている「LUKEアーム」は、外部バッテリーで駆動し、外部のコンピュータに接続されている。ちなみに、映画「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカーにちなんで名付けられたという。

この「LUKEアーム」とユーザーの神経をつないでいるのが、研究チームが独自に開発した微小電極100本からなる電極列だ。この電極列はユーザーの前腕の神経繊維に埋め込まれ、外部のコンピュータと接続している。前腕の神経からの電気信号をこの電極列が解釈し、コンピュータがデジタル信号に変換して「LUKEアーム」を動かすための指示を出す仕組みだ。

「LUKEアーム」には、この電極列を介して神経に電気信号を送るセンサーも備わっている。研究チームでは、ヒトの手が何かに触れたときに信号を脳へ伝える仕組みを模倣したアルゴリズムを開発。このアルゴリズムを「LUKEアーム」に実装することで、「LUKEアーム」のセンサーからの感覚情報を脳が理解し、対象物を認識できるようになる。

「涙しそうになった、本当に驚いた」と、事故で左手を失った被験者

研究チームは、2017年、7名を対象に「LUKEアーム」の臨床試験を実施。被験者の一人で、17年前に事故で左手と左腕の一部を失ったケヴェン・ウォルガモット氏は、「LUKEアーム」によって、殻を壊すことなく卵を持ち上げたり、実をつぶさずにブドウを掴んだりできたほか、健常者と同じように妻の手を握ることができたという。

ウォルガモット氏は、この臨床試験で初めて「LUKEアーム」を使った経験を振り返り、「涙しそうになった。本当に驚いた。手で感じられるようになるとは想像もしていなかった」と述べている。

研究チームでは、これまでに、外部のコンピュータに接続する必要がない携帯型「LUKEアーム」の試作品も製作している。2021年までには、米連邦規制当局の承認を得たうえで、「LUKEアーム」の試作機を家庭で使用できるようにしたい方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ

ワールド

イスラエルとヒズボラ、激しい応戦継続 米の停戦交渉

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中