最新記事

香港

対警察、対小売店に「愛国者」まで 香港デモに終わりは見えない

Hong Kong’s Yin-Yang Protests

2019年7月22日(月)12時05分
イラリア・マリア・サラ(香港在住ジャーナリスト)

2014年の雨傘革命の後、一部の若者は正規のルートで政治に参加しようと考え、選挙に立候補して立法会議員になった。しかし、香港政府と中国政府は彼らの行動を容認できないと考えた。特に有力な民主派議員6人は、議員資格を剥奪されていた。

7月1日以降、立法会は閉鎖されたままになっている。近くの橋の上から、通行人(その中には中国本土からの観光客もいる)が建物の中をのぞき込み、落書きの写真を手早く撮影していく。人々はほとんど言葉を交わさないが、表情には非難よりも驚きが見て取れる。その感情は、少しの興奮と言ってもいいかもしれない。

警察がデモ隊に暴力を振るい、林鄭がかたくなに対話を拒んだことにより、普段は保守的な香港市民も、半数以上が若者の暴力的な運動を支持している。高齢者や母親たちもデモ隊を支持して行進に加わった。珍しくジャーナリストたちも、警察の暴力に抗議してデモに参加した。宗教団体、法律家、ソーシャルワーカーなども行進した。

ただし、時間がたつと、抗議運動への反対勢力も登場し始めた。「愛国者」を自称する人たちが街頭でデモ隊を挑発し、直ちにそこから逃げ去ることを繰り返している。

多くの香港市民が抗議活動に同調する根底にあるのは、自分たちの意向が政治に全く反映されないことへの不満だ。

人々の「反本土感情」は極めて強い。その感情の一部は、アイデンティティーの不安に根差している。中国本土からの大量の移住がこのまま続けば、香港の独自性が薄まるのではないかと恐れているのだ(学生と就労者とは別に、毎年5万人の移住が認められている)。香港で話されている広東語は北京語とは大きく異なる言葉だが、北京語に押されて広東語が廃れてしまうことへの不安もある。

抗議運動に特定のリーダーはいないので、さまざまなグループが逃亡犯条例改正案の全面撤回という主張を共有しつつ、各地で独自の運動を展開している。

ブルース・リーの言葉

抗議運動は、香港が生んだ伝説の武道家・アクションスター、ブルース・リーの「友よ、水になれ」という言葉をスローガンにしている。水のように絶えず柔軟に変化し、状況に応じて前進したり、後退したりせよというわけだ。

警察を標的にしているグループもあれば、各地にいわゆる「レノンウォール」をつくる活動に力を注ぐグループもある。市内あちこちの壁を、団結と支援のメッセージが記されたメモで埋め尽くそうという活動だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中