最新記事

サイエンス

子宮内共食いなど「サメの共食い」恐怖の実態

'Cannibals Before Birth': Sand Tiger Sharks Eat One Another in the Womb

2019年7月16日(火)17時30分
アリストス・ジョージャウ

生まれる前から共食いを運命づけられた狂暴で不思議なシロワニ  Andrea Comas-REUTERS

<母ザメの妊娠初期には胚が10数個あるのに、生まれてくるときは2匹だけ。残りはどうなったのか──シロワニの研究はそんな疑問から始まった>

サメの一種「シロワニ」は、母ザメの子宮内にいるうちから恐ろしいほど狂暴だ。ナショジオワイルドの新しいドキュメンタリー番組『Cannibal Sharks(共食いをするサメたち)』がその様子を紹介している。

シロワニの恐ろしい共食い行動の詳細を明かすのは、6年以上にわたって研究しているフロリダ国際大学の研究者デミアン・チャップマンだ。「シロワニの生殖活動について調査が始まった1970年代に、シロワニが必ず子どもを2匹産むことに科学者たちは気がついた」と、チャップマンは言う(シロワニは胎生で、雌の体内で卵が孵化し、子は成長して外に出る)。「しかし、妊娠初期のシロワニの子宮内には12~14の胚がある。そこで大きな疑問がわいた。残りの胚はどうなってしまうのか」

<参考記事>巨大なホホジロザメが一匹残らず逃げる相手は

チャップマンはこれらの研究の一環として、シロワニのDNAサンプルを採取。その結果、胎仔は、父親が異なっている場合が多いことが明らかになった。雌が複数の雄と交尾するためだ。雌のシロワニは子宮を2つ持っており、それぞれの子宮内で最大の胎仔が成長する。

「最も年上の胎仔は、ほかの胎仔より早めに成長する。歯や目も、少しだけ早く発達するわけだ」とチャップマンは語る。「歯が生えそろうと、年長の胎仔は獲物を求め、兄弟をすべて食い尽くす。シロワニは生まれる前から共食いをする。きわめて狂暴だ」

シロワニ、子宮内の共食い


3.6メートルのサメをほぼ食いちぎったのは?

英国王立協会の科学誌『バイオロジー・レターズ』に掲載されたチャップマンの研究論文によれば、シロワニの年長の胎仔は体長が10cmほどになると、共食いによって飛躍的に成長し、強くなる。こうした「子宮内共食い」によって、子宮1つにつき1匹、計2匹が生まれるというわけだ。

<参考記事>シャチがホホジロザメを餌にし始めた

この番組には、他のサメの共食い映像もある。ダイバーが撮影した巨大なホオジロザメ同士の食い合いのほか、脇腹の辺りをほかのサメに食いちぎられたホオジロザメの死体の写真もある。

ホオジロザメの戦いと、胴体をほぼ食いちぎられたホオジロザメ


「驚くべき写真だ」と話すのは、オーストラリア海洋科学研究所の海洋生物学者マーク・ミーカンだ。「(噛まれたサメは)巨大だ。体長が3.6メートルほどもある。だが、この噛みちぎられた跡はさらにものすごく大きい。ほかのサメをこんなふうに一発で噛みちぎるには、計り知れないパワーが必要だ」

このようなサメの共食いは、今まで考えられていたよりも頻繁にあると専門家は考えている。

(翻訳:ガリレオ)

20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中