最新記事

東アジア

苦境・韓国の中国離れはトランプに大朗報

2019年7月16日(火)17時10分
ロバート・ファーリー

韓国経済界の代表と会見する文在寅大統領 Yonhap-REUTERS

<中国の政治的な不確実性、産業スパイの懸念などから今後も韓国の脱・中国の流れは続きそう>

アメリカのトランプ政権はいささか強引過ぎるやり方で、友好国の企業に中国との「縁切り」を迫っているが、韓国は一足先に脱・中国を開始した可能性がある(写真は韓国経済界の代表と会見する文在寅〔ムン・ジェイン〕大統領)。

香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによると、韓国企業はここ数年、中国市場への関与を減らし、ベトナムへの投資とサプライチェーンの多様化を推進している。ロッテグループやサムスンなどの企業がこのような意思決定に至った理由は、中国の政治的な不確実性、産業スパイの懸念、アメリカによる制裁の恐れなどだ。

例えば韓国へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に対する中国の反発は、韓国企業に中国投資の安全性への疑念を抱かせた。中国では中央政府と地方で規制がばらばらなため、企業は統一的な経営戦略が立てづらい。さらに、韓国企業は中国市場における現地企業との競争で優位性を失いつつある。

ベトナムにも中国と同様の問題はあるが、中国に比べて資本の集積度が低く、欧米に敵対的ではなく、国内市場の競争も激しくない。将来的には他の国々も韓国に続く可能性がある。

日本による半導体素材などの韓国への輸出管理強化の影響はまだ不明。代替品を探す韓国が中国に目を向ける可能性はあるが、全体としては今後も韓国の脱・中国の流れは続きそうだ。

トランプ政権にとっては願ったりかなったりだろう。中国を世界経済から排除することは現時点ではまず不可能だが、一部の企業(外国企業も含む)が自主的に中国離れを進めれば、さまざまな政策手段を動員して「中国外し」を加速させることが可能になるかもしれない。

もっとも、多くの面で中国企業が韓国勢に追い付いてきたことを考えれば、韓国の脱・中国は遅きに失した感もあるが......。

<本誌2019年7月23日号掲載>

From thediplomat.com

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

メキシコ、米と報復関税合戦を行うつもりはない=大統

ビジネス

中国企業、1─3月に米エヌビディアのAI半導体16

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中