最新記事

EU

イギリス、EU制裁違反のイラン石油タンカーを拿捕 核合意問題へのメッセージか?

2019年7月5日(金)11時00分

英海兵隊は、欧州連合(EU)の制裁に違反してシリアに原油を輸送していた疑いのあるイランの大型石油タンカーを英領ジブラルタル沖で拿捕した。拿捕されたタンカー「グレース1」。ジブラルタル沖で撮影。提供写真(2019年 ロイター)

英海兵隊は4日、欧州連合(EU)の制裁に違反してシリアに原油を輸送していた疑いのあるイランの大型石油タンカーを英領ジブラルタル沖で拿捕(だほ)した。イランは抗議しており、同国と西側諸国の対立が深まる恐れがある。

拿捕されたタンカーは30万トン級の「グレース1」。中東から地中海方面に向けアフリカ大陸南端沖を航行した後、スペインの南端に位置するジブラルタル沖で拿捕された。

イラン外務省は同国駐在の英国大使を呼び出し、拿捕は「違法で容認できない」として厳重に抗議。拿捕されたタンカーはパナマ国旗を掲揚して運航し運航会社としてシンガポールに拠点を置く企業が登録されているが、イランが抗議したことから、イランのタンカーであることが明確になった。

パナマ海運当局は、グレース1は5月29日時点でパナマ船籍の登録から外れていると明らかにした。

ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は4日、英当局によるタンカー拿捕に歓迎の意を表明。ツイッターに「米国と同盟国は引き続き、イランとシリアの政権が違法な取引で利益を挙げるのを阻止する」と投稿した。

ロイターが入手した輸送に関する情報によると、グレース1はイランの沖合いで積荷されたイラン産原油を輸送していた可能性がある。ただ同タンカーの文書には積載された原油はイラク産と記載されている。

欧州はシリアへの石油輸出を2011年から禁止しているが、これに絡む石油タンカーの拿捕は今回が初めて。イランに対しては、米国のように広範な制裁は行っていない。

企業に対し制裁措置に関する助言を行なっている法律事務所ピルスベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマンのパートナー、マシュー・オレスマン氏は「EUが公然とこのような強硬な行動に出るのは初めて。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍隊が関与していることを踏まえると、米国と何らかの方法で調整が行われていたと考えている」と指摘。

「シリアとイランのほか、米国に対し、欧州は制裁履行を真剣にとらえており、進行中の核協議に関するイランの瀬戸際政策にもEUは対応可能であるとのメッセージを送る意味合いがあった公算が大きい」との見方を示した。

イランがグレース1が同国の保有であることを明確にし、積載された原油もイラン産である可能性が高いことを踏まえると、拿捕はイラン産原油の全面禁輸を科す米国の制裁にも関係しているとみられる。

欧州諸国はこれまで、イランと米国との対立激化に関して中立的な立場を維持してきた。

ジブラルタル自治政府は、制裁対象に指定されている組織が所有するシリアのバニヤス製油所向けの原油をグレース1が輸送していたと見なす正当な理由があると指摘。ピカルド自治政府首相は「ジブラルタル当局はタンカー拿捕に英海兵隊の支援を求めた」と述べた。メイ英首相の報道官はジブラルタル当局の対応を歓迎した。

ジブラルタルの領有権を英国と争うスペインは、拿捕は米国が英国に要請したもので、スペイン領海内で行われた可能性があるとの見方を示した。英外務省はコメントの求めに応じていない。

欧米の対シリア制裁にかかわらず、イランは長年にわたりシリア国内のイラン系勢力に原油を供給してきた。シリア制裁に加え、米国は昨年、イラン核合意から離脱し、対イラン制裁を再開した。今年の5月以降、イラン制裁は大幅に強化されており、イランは実質的に主要な石油市場から締め出された。

グレース1について、ロイターは今年に入り、米制裁措置に違反してイラン産原油をシンガポールと中国に輸送しているタンカー4隻のうちの1隻だと報道していた。

[ロンドン/ドバイ 4日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中