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香港200万人デモ:香港政府、市民、共産党それぞれへの教訓

2019年7月1日(月)11時00分
スティーブ・ツァン(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院中国研究所所長)

香港のデモ参加者は林鄭月娥行政長官(似顔絵)を痛烈に批判している JORGE SILVA-REUTERS

<大規模デモ成功の原因は「林鄭狙い」。中国は長官選挙の一般投票を認めるべきだ>

香港の大規模デモに表れているのは、イギリスが1997年に香港を中国に返還した際に保証されたはずの民主的な生活様式を守ろうとする市民の強い決意だ。さらに今回のデモは、3つの大きな教訓をもたらしている。それぞれ香港行政長官、デモ参加者、そして北京の指導部に対する教訓だ。

中国政府はこの数年間、1997年の返還後も香港に高度な自治を保証した「一国二制度」を骨抜きにしつつある。今回のデモを引き起こしたのは、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が逃亡犯条例の改正を目指したことだった。これは習近平(シー・チンピン)国家主 席の反汚職運動の香港拡大バージョンであり、2017年に中国の公安当局が香港から中国の富豪を拉致したような事件の再発を防ぐ狙いも込められていた。

中国政府が林鄭に改正案の成立を具体的に指示した証拠はない。だが同法案の対象を、本土からの逃亡犯だけでなく、香港市民や、一時的に滞在している外国人や観光客にまで広げたのはやり過ぎだった。改正案の対象は広範囲に及んだ。民主活動家や、本土の企業との関係をこじらせた実業家は、自分が合法的に本土に送還され、共産党の司法制度の下で裁かれることを懸念した。

デモには、香港の人口の3割近くに当たる約200万人が参加した。そこにあふれたスロー ガンからも明らかなように、デモ隊が訴えたのは共産党や習、その傀儡である林鄭への非難ではない。市民の間に広がる国家権力への不安であり、林鄭の失態への怒りだ。

林鄭は通常の手続きを経ることなく、逃亡犯条例改正案の可決を急いだ。天安門事件30周年を機に世界の目が中国に集まっていたときに、市民を武力で鎮圧するよう警察に指示。警官が市民に催涙ガスやゴム弾を使用した作戦は、貿易戦争の終結を探るためトランプ米大統領との会談に備えていた習には迷惑極まりなかった。

林鄭の当初のおざなりの対応は市民の怒りに油を注いだ。中国政府が林鄭の方針転換を容認した後、林鄭は改めて率直に謝罪。改正案導入の審議を延期すると約束したことで大規模なデモは収束したが、市民のいら立ちは今もなお収まっていない。

行政長官は北京のお荷物

今回のデモで明らかになったことが3つある。1つ目にして最も明白な教訓は、林鄭は中国当局にとってお荷物であり、行政長官として無能だということ。林鄭が香港のためにできる最良の策は、北京の指導部に更迭される前に辞任することだ。

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