最新記事

フランス

ぶっ飛びエリートから庶民の味方へ脱皮?──マクロン劇場は正念場の第2幕へ

Emmanuel Macron, Part Deux

2019年7月18日(木)15時30分
ロバート・ザレツキー(米ヒューストン大学教授)

ノルマンディー上陸作戦75年式典に出席したマクロン(6月6日) FRANCOIS MORIーPOOLーREUTERS

<黄色いベスト運動は失速したが、上から目線の「超然型大統領」から庶民の味方への脱皮は容易ではない>

アメリカ人の人生に第2幕はない――作家スコット・フィッツジェラルドはそう書き残した。この格言はフランス人には適用されないと、エマニュエル・マクロンは考えている。

フランスでは今年4月以来、大統領の5年の任期の第2幕が盛んに喧伝されている。第1幕終了後の幕間には、「黄色いベスト運動」という前例のない規模の抗議行動が猛威を振るい、政府を大きく揺さぶった。

これに対してマクロンは、やはり前代未聞の対策に打って出た。「国民大討論」と銘打った2カ月間のトークイベントの開催だ。その期間の長さとマクロンの驚くべき多弁は抗議行動の勢いをそぎ、6月後半の週末にはデモ参加者が1万2000人にまで減った。運動の初期には、25万人の参加者があったことを考えると、文字どおりの急減だ。

それでも、デモ隊は大統領辞任という不可能に近い目標は達成できなかったものの、マクロン政権第1幕の政策と統治スタイルの多くを放棄させることには成功した。

ニコラ・サルコジ、フランソワ・オランド両大統領の失敗を受けて就任したマクロンは、フランスは強く安定した大統領を求めていると判断した。そして権威型モデルのシャルル・ドゴールでもあり得ないような「ユピテル的」大統領を目指すことにした。ローマ神話の主神ユピテル(ジュピター)のような超然とした姿勢で統治する大統領という意味だ。

この垂直型アプローチによる統治の下、第1幕のマクロンは経済改革を次々に断行した。地球温暖化対策の一環として、燃料税引き上げを発表。労働法制を緩和し、富裕税を廃止した。

だが、最後の富裕税廃止は国民の受けがよくなかった。さらに貧困層は福祉制度から「パン生地をかき集めている」といった、いかにもエリート主義的な発言も相まって、マクロンは「富裕層のための大統領」と評されるようになった。

黄色いベスト運動によって、マクロンはいくつもの譲歩と妥協を余儀なくされた。富裕税の復活には最後まで抵抗したが、政府は燃料税の増税を撤回し、最低賃金を引き上げた。さらに国民大討論を開始することで、ユピテル的アプローチが人々を遠ざける結果を招いたことを認めた。昨年12月、支持率は23%まで落ち込んだ。

市民の痛みに寄り添う

だが、黄色いベスト運動の失速と国民大討論での攻勢とともに、支持率は徐々に回復。現在は30%台を維持している。復調の大きな要因は5月の欧州議会選挙で運動の先頭に立ち、選挙戦をマニ教的な善悪二元論対立の舞台にした巧みな戦術だ。光の軍団はマクロンの「前進する共和国(REM)」。闇の勢力役は、マリーヌ・ルペン率いる極右・国民連合に割り当てられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な

ビジネス

トランプ関税、「コロナ禍規模の衝撃」なら物価懸念=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中