日産株主総会でルノーが「棄権」? 新体制が抱える妥協人事のリスク
6月25日、日産自動車の統治改革での人事を巡る仏ルノーとの対立は双方の妥協で表向きは解消したが、ルノーの揺さぶりは日産社内に大きな禍根を残した。とりわけルノーのジャンドミニク・スナール会長(写真)の変心に日産幹部らは不信感を強めた。3月に横浜で撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung Hoon)
日産自動車の統治改革での人事を巡る仏ルノーとの対立は双方の妥協で表向きは解消したが、ルノーの揺さぶりは日産社内に大きな禍根を残した。とりわけルノーのジャンドミニク・スナール会長の変心に日産幹部らは不信感を強めた。経営統合を進めたいルノーと独立性を維持したい日産との攻防はこれからが本番。両社間の緊張はかつてない高まりを見せている。
スナール会長への不信感
「とにかくがっかり。彼の信用はガタ落ちだ」――。日産関係者は、紳士的だと思っていたルノーのスナール会長の突然の心変わりに怒りと落胆を隠さなかった。
日産が目指す「指名委員会等設置会社」への移行に必要な定款変更の議案は5月14・15日に開いた取締役会で全会一致で決まり、スナール会長も賛同したはずだった。
にもかかわらず、同会長は日産の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)に書簡を送付し、移行に伴い新設する委員会の人事に納得できないとして、25日の日産株主総会における議案採決で「棄権」する意向を示した。同関係者は「なぜ今さら反対を言い出すのか」といぶかった。
この書簡は、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)がルノーとの経営統合案を撤回した6月6日の翌日の7日付。FCAとの統合案で、肝心の提携相手である日産の支持を得られず、ルノーの筆頭株主であるフランス政府に「待った」をかけられたスナール会長の「焦りのあらわれでは」と複数の日産関係者がみている。
失われた信頼
両社の交渉に詳しい別の関係者も「ルノーは最初から日産の人事案を受け入れたほうがよかった。交渉に1週間近く費やされ、明らかに両社間の信頼は損なわれた」と株主総会前のルノーの行動を批判した。
日産は指名委員会等設置会社への移行後に指名・監査・報酬の3つの委員会を新設する。日産は当初、ルノーからはスナール会長のみを委員に入れる計画だったが、ルノーは3つの委員会すべてに委員ポストを求めてきた。ただ、日産はルノーの要望に応じてティエリー・ボロレCEOも迎える妥協案を提示。この結果、スナール会長は指名委員会のメンバーに、ボロレCEOは監査委員会のメンバーに入ることとなった。
統治改革に伴う定款変更議案の成立には、議決権を行使できる過半の株主の出席と、出席株主の3分の2以上の賛成が必要。日産に約43%を出資する筆頭株主のルノーが「棄権」すれば、議案成立は極めて難しい情勢だったが、ルノーが日産の修正人事案を受け入れ「賛成」に転じたことで、25日の株主総会では日産の提案する議案が可決され、統治改革を予定通りに進めることができる見通しだ。