米サイバー軍はイラン革命防衛隊に報復攻撃したのか
イランも過去には歴史的なサイバー攻撃の被害に遭っている。アメリカは2009年にイランのナタンズ核燃料施設を破壊した「オリンピック・ゲームス作戦」というサイバー攻撃を行なっている。「オリンピック・ゲームス作戦」は、「スタックスネット」と呼ばれるマルウェア(悪意のあるプログラム)が使われたことから、通称「スタックスネット」と呼ばれている。この攻撃では、米国はナタンズの施設内部でウラン濃縮作業に使われていた遠心分離機をサイバー攻撃し、不正操作して爆破させた。
このように、イランとアメリカはお互いにサイバー攻撃を繰り広げてきた。そんなことから、ホルムズ海峡に絡む緊張の高まりの裏でもサイバー攻撃が行われたというのは不思議ではない。そしてアメリカからの攻撃は今後さらに激化する可能性がある。その鍵を握るのは、トランプ大統領が2018年に独立した統合軍に格上げした米サイバー軍にある。
バラク・オバマ前大統領時代は、他国に重大な被害をもたらすサイバー攻撃については大統領による承認が必要だと「大統領政策指令20(PPD20)」に明記された。しかもオバマ時代には、サイバー攻撃は通常の兵器と同じような扱いにするようにもしている。
だがトランプ大統領はこのPPD20の「大統領の承認」という規定を緩め、米軍が他国などへ、これまで以上に迅速に、もっと頻繁に攻撃的なサイバー工作を実施できるようにした。つまり、現場に攻撃の裁量を与えた。そしてこの任務を与えられたのは、2018年4月にサイバー軍の司令官に就任したポール・ナカソネ陸軍中将だ。日系3世であるナカソネは、アメリカが誇る有能なハッキング軍団を擁するNSA(米国家安全保障局)の長官も兼務している。
実は、ナカソネは2009年から米軍がイラン有事の際に実施する予定だったイランへのサイバー攻撃作戦「ニトロ・ゼウス」の計画に深く関わっていた。
米軍はイランに対して、実際の軍事攻撃とサイバー攻撃を組み合わせた「ハイブリッド攻撃」を考えていた。そのサイバー攻撃計画とは、例えばイランの防空レーダー網や通信システムの機能を妨害したり、国内の電力網をサイバー攻撃して停電を起こさせたりするというもの。ただ実際には、2015年に米英独仏中ロとイランが核合意に達したことで、計画は中止に。ただ、この計画に関わっていたのが現在のサイバー軍の司令官だと考えれば、イランに対してサイバー攻撃が行われることに違和感はない。
ここまで見てきた通り、国際政治や国家間のせめぎ合いなど安全保障の舞台裏では、サイバー攻撃は欠くことのできない重要な要素となっている。筆者はサイバー攻撃のこうした側面を研究してきたが、まだ日本でもその認識が広く浸透していないように感じている。
安全保障分野の重要な要素となっているサイバー攻撃――その実態は、これからの国際情勢で今以上に欠かせない重要項目になってくる。
【筆者からのお知らせ】
2018年7月2日に開催される米アカマイ・テクノロジーズ主催「Akamai Security Conference 2019~2020 企業セキュリティの『構え』を問う」にて、安全保障から犯罪までサイバー攻撃の実態と、それが一般企業にどんなインパクトをもたらすのかについて講演する予定です。(詳細はこちらから:https://www.event-entry.net/akamai/sc2019/)。
2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら