最新記事

人権問題

韓国・仁川空港に住むアンゴラ人家族 「人権派」大統領の国は難民申請どころか入国も拒否

2019年6月21日(金)17時10分
桑原 りさ(キャスター)*東洋経済オンラインから転載

逮捕から9日目の深夜、1人の警察官が突然ルレンドさんを刑務所から連れ出し、別の警察官2人と共にルレンドさんを車に乗せて走らせた。ルレンドさんは、このままどこかで銃殺されるものだと思い、むせび泣いていたという。

しかし15kmほど走った後、ルレンドさんは突然車外に出され、逃げるチャンスを与えられたというのだ。いまだにその理由は不明だが、恐らくその警察官自身もバコンゴであり、ルレンドさんを不憫に思って助けてくれたのかもしれないという。

その夜、ルレンドさんは教会に身を潜めていた。ルレンドさんの自宅には、刑務所からいなくなった彼を探しに3人の警察官がやってきたという。そしてそのうちの2人の警察官が家の中に入ってきて、ルレンド夫人をレイプして帰ったというのだ。眠っている子どもたちは何も気付かなかったのが不幸中の幸いだったが、夫人は恐怖で朝まで泣いて過ごしたという。

newsweek_20190621_164320.jpg

取材に対応するルレンド一家(筆者提供)

「子どもたちの人生だけは守りたい」

その翌日から約1カ月間、夫人と子どもたちは教会の監督の家にかくまってもらい、ルレンドさんは教会に隠れ続けた。警察官がバコンゴに路上で暴力を振るい銃殺することも珍しくないというアンゴラで、ルレンド一家は命の危険を感じずにはいられなかった。「アンゴラから逃げ出さないと殺される。どこでもいいから海外へ」と一家は、自宅近くの韓国大使館で観光ビザを取得し、アンゴラを後にした。

2018年12月28日、韓国・仁川国際空港に到着したが、入国許可が下りなかった。ルレンドさんの母語フランス語での短い電話審査の後、入国不許可の判断が下されたのだ。祖国に強制送還されなかったのは救いとも言えるかもしれないが、現在に至るまで150日以上もの空港生活が続いている。所持金も底を突いているため、韓国人を中心とした支援者たちからの寄付や支援物資で日々をしのいでいる状態だ。

この生活が心身に与える負担の大きさは計り知れない。子宮筋腫、卵巣のう腫、膀胱炎などと診断され、体調不良を訴えるルレンド夫人だが「私はここで死んでも構わない。でも子どもたちの人生だけは守りたい。学校にも行けずこんな生活をさせてしまい、申し訳なくて」と涙を浮かべていた。

アンゴラで教会の監督の家に身を潜めていた期間は、家族の身の安全のために、子どもたちは学校に行かせなかったという。しかし夫人は、期末テストの日だけは子どもたちを守りながら学校へ連れて行き、午前中2時間のテストだけは受けさせたという。

その理由を尋ねると「子どもたちの進学がかかっているから。子どもたちの未来のために、試験だけはパスさせて進学させないと」と話した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ENEOS、海運事業の一部譲渡完了 700億円を営

ビジネス

シャオミのEVが死亡事故、運転支援モードで柱に衝突

ワールド

中国軍、台湾周辺で軍事演習開始 頼総統を「寄生虫」

ビジネス

日経平均は小反発、買い一巡後は上値重い 米関税への
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中