最新記事

パラグアイ

森林破壊が進むパラグアイ 先住民はGPSとスマホで祖先の森を守る

2019年5月31日(金)15時00分

5月20日、パラグアイの先住民がデジタル機材を使い、祖先から受け継いだ自分たちの森を守ろうとしている。写真はムブヤ・グアラニー族が暮らすコミュニティ。5月9日に撮影(2019年 ロイター/Jorge Adorno)

ルミルダ・フェルナンデスさん(28)が属する先住民のコミュニティは長年、先祖から受け継いだ土地に、木や川の名前を使った伝統的なやり方で境界線を引いて守ってきた。森林破壊と畑作に脅かされる今、同コミュニティはデジタル機材を使って自らを守ろうとしている。

フェルナンデスさんは、このコミュニティ初のデジタル機材を装備した森林監視員の1人で、スマートフォンのアプリや衛星利用測位システム(GPS)を手に、コミュニティ内の小道を歩き回っている。

この仕事は、彼女が属するムブヤ・グアラニー族の存亡を左右するものだ。森林破壊が進むパラグアイにあって、彼らの土地は周囲に広がる大豆やトウモロコシの農場に長年侵害されてきた。

「森は私たちにとってスーパーマーケットのようなもので、ほかに必要なものは何もなかった。だが森林が破壊され、すべてが変わってしまった」

コミュニティの指導者コルネリア・フロレスさん(60)はこう話す。

「以前は、自分たちの土地が何ヘクタールあるのか把握していなかった。今では、地図があり、実際の面積が分かっている」と、フロレスさんは付け加えた。

森林監視の「デジタル化」は、国連食糧農業機関(FAO)が進めているプログラムの一環。首都アスンシオンの東約200キロの位置にあるカアグアス県でムブヤ族の先住民の若者8人を訓練している。

監視担当者は、スマホのアプリを使って特徴的な自然の「標識」を撮影し、「yvyra pyta」や「guajayvi」、「ygary」など、伝統的な言葉でタグを付けていく。撮影された情報は自動的に地図に落とし込まれ、コミュニティの土地の境界が記されていく。

「簡単に覚えられた。テクノロジーの部分は難しかったけれど」と、フェルナンデスさんは言う。それまでコンピューターやGPSは使ったこともなかった。

ムブヤ族の指導者は、テクノロジーを導入することで、過去に大規模生産者や農場に占拠されたこともある土地と、食料や薬になる植物をはぐくむかけがえのない森を守ることにつながると考えている。

パラグアイの人口の2%を占める先住民にとって、土地や天然資源を失うことは痛みを伴う問題だ。公式データによると、先住民の75%が貧困状態、または極貧状態にあるが、専門家は土地などの喪失が主な原因の1つだと指摘している。

バレーラ社会開発相はロイターに対し、パラグアイ社会において先住民が「受け入れられなかったり、独自の文化が尊敬されず」、のけ者にされてきたことが貧困の背景にあると分析した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

南ア、イスラエルのラファ攻撃「阻止する必要」 国際

ビジネス

マイクロソフト、中国の一部従業員に国外転勤を提示

ビジネス

先進国は今のところ賃金と物価の連鎖的上昇回避、バー

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ロシアとの武器取引否定 「ばかげ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中