最新記事

米中貿易戦争

米中貿易交渉目前、中国も呆れたトランプの手のひら返し

Let's Break a Deal! Trump's Trade-War Tweets 'Completely Baffled' Beijing

2019年5月7日(火)18時10分
ビル・パウエル

習は経済的にも難しい立場に置かれている。アメリカとの貿易戦争は、中国経済が既に減速しつつある中で始まった。過去10年で、中国経済の輸出依存度は低下した(GDP比で10年前は31%だったが2018年は18%)が、それでも貿易戦争はアメリカよりも中国に打撃をもたらした。

安定的な成長を確保するために習は財政支出を増やしたが、彼の経済顧問たちはこれに反対していた。事実上すべてのエコノミストが、中国の長期的な成長にとっては債務負担の削減が不可欠だと指摘している。

習には米中貿易問題での合意が必要であることを、トランプは知っているのだ。だが2020年の大統領選が近づくなか、トランプもまた合意を必要としていることは、習も知っている。だから両国の実業界や投資家たちは、今週の交渉で合意がまとまると確信していたし、中国政府は5日のトランプのツイートにそこまで驚いたのだ。

トランプが直面する政治力学について、中国政府の理解は米実業界のそれと少し違っていた。米経済は順調に成長を遂げており(2019年第1四半期の成長率はなんと3.2%)、失業率は50年ぶりの低水準。株式市場は再び記録的高水準に達しつつある。2020年の大統領選でトランプが再び勝利するとすれば、その大きな要因は経済面での業績だろう。

中国側は大人の対応

その経済を短期的に混乱させかねない唯一の要素が貿易だ。トランプのツイートを受けて、世界の株式市場がすぐに下落した理由はそこにある(米政府は同じく5日にイランへの警告としてペルシャ湾に空母打撃群を派遣すると発表しており、これも影響した)。

中国政府は6日午後までに、いずれにせよ貿易交渉に向けて代表団をワシントンに派遣すると決定し、それを受けて米株式市場は反発した。中国政府の元経済官僚は本誌に対し、脅しを受けても交渉チームを派遣することで、中国政府は「トランプの愚行に大人の対応」をして見せようとしているのだとコメントした。

だが中国側の交渉責任者である劉が飛行機に乗り込むかどうかは不透明だ。もしもアメリカ行きの機内に彼の姿がなければ、今回の協議で大筋合意がまとまる可能性はほとんどない。

(翻訳:森美歩)

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中