最新記事

中国

「令和」に関して炎上する中国ネット

2019年4月4日(木)12時40分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

「風和」は「風(かぜ)和(やわ)らぎ」と説明されている一方、張衡が用いた「時和」の意味は「時(とき)和(やわ)らぎ」なので、万葉集では張衡の「時」「風」に置き換えたことになる。「時」は「流れゆく時間」「流れゆく季節」でもあるので、それは「流れる風」と対応させることは容易だろう。

以上は、何万とも言える中国におけるネットユーザーたちのコメントをまとめたものだ。

省略された「於是」に相当する「于(於)時」

菅官房長官の発表や安倍首相の説明において、意図的か否かは分からないが、省略された文字がある。

それは万葉集の「初春令月、気淑風和」の前にある「于時」という2文字だ。

原典では「于時、初春令月、気淑風和」となっているようで、この「于時」は日本では「時(とき)に」と読まれているようだ。

この「于」は「於」と同じ文字で、「于」は「於」の、中国における現在の簡体字。中国では今では「于」という文字しか使わないが、昔は「於」を用い、時に簡略的に「于」を用いることもあった。

張衡の『帰田賦』では、「仲春令月、時和気清」の前に同様に「於是」という2文字がある。

中国人なら誰でもわかるが、「于時」も「於是」も発音は [yu shi]だ。

同じ発音なのである。[yu]は同じ文字でもある。

万葉集を詠んでいた頃の歌人は中国語の発音や漢文を非常によく理解していたことだろう。だから『帰田賦』の「於是(yu shi)」を万葉集では同じ発音の「于時(yu shi)」に置き換えたのかもしれない。

中国のネットユーザーの多くは、1980年後に生まれた「80后(バーリンホウ)」たちで、彼らは日本のアニメと漫画で育った世代である。日本語を読める者が多い。

多くのネットユーザーが、菅官房長官の発表や安倍首相の説明において、この「于時」を省いたことを指摘している。

万葉集に関してあまり知らない筆者は、後追いで当該部分の原文を画像などで検索してみたところ、たしかに「初春令月、気淑風和」の前に「于時(時に)」があるのを発見した。

すなわち、

  万葉集:于時(yu shi)、初春令月、気淑風和。

  帰田賦:於是(yu shi)、仲春令月、時和気清。

と、10文字がきれいな対を成しており、明らかに「本歌取り」であったことは否めないだろう(中国のネットでは「盗作」とか「剽窃」という言葉が目立つ)。残りの文字も、内容的にはほぼ類似の趣旨である。詳細は省く。

「脱中国と言いながら」という批判

日本では一言も、「脱中国」などと言ってはいないが、中国では中国共産党の機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」がこの度の新元号「令和」に関して「去中国化(脱中国)」という言葉を使ったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 8
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 9
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 10
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中