最新記事

大麻

大麻草の栽培によらず、酵母での大麻化合物の生成に成功

2019年3月4日(月)19時01分
松岡由希子

カナダの大麻工場 Chris Wattie-REUTERS

<米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、世界で初めて、大麻草の栽培によらず、研究室内での大麻化合物の生成に成功した>

医療目的の大麻産業は環境に負荷をかけている

大麻草(カンナビス・サティバ・エル)は、長年、世界中で栽培され、大麻草に含まれる化学物質「カンナビノイド」の一部は医療目的で利用されてきた。大麻草の栽培は、エネルギーを大量に消費し、環境にも少なからず負荷をかけているのが現状だ。

屋内栽培では、照明や換気扇を利用するため大量のエネルギーを消費している。2012年の調査結果によると、カリフォルニア州では、大麻産業におけるエネルギーの消費量が州全体の3%を占めた。

また、米カリフォルニア州北西部では、大麻草を栽培する農場から農薬や肥料が流出し、河川を汚染した事例がある。このようななか、世界で初めて、大麻草の栽培によらず、研究室内での大麻化合物の生成に成功したことが明らかとなった。

従来に比べ低コストで安全かつ効率的な手法

米カリフォルニア大学バークレー校のジェイ・キースリング教授らの研究チームは、合成生物学を応用し、遺伝子組み替えした酵母から、カンナビノイドの主な成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)やカンナビジオール(CBD)のほか、大麻草には含まれない新しい成分を生成させることに成功し、2019年2月27日、その研究成果を学術雑誌「ネイチャー」で公開した。

酵母に糖を与えることでこれらの化学物質を生成できることから、大麻草を栽培して成分を抽出する従来の手法に比べ、低コストで安全かつ効率的な手法であると評価されている。

カンナビノイドの医療利用は変わるのか

この手法では、まず酵母からカンナビノイドの前駆体であるカンナビゲノール酸(CBGA)を生成させ、それぞれ異なる酵素を加えて、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)とカンナビジバリン(CBDV)をつくり出し、これらを熱にさらして脱炭酸してテトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)を抽出するという流れだ。酵母でカンナビゲノール酸(CBGA)を生成するプロセスは、大麻草で用いられるヘキサン酸の代わりに、他の脂肪酸も受け入れるため、大麻草には存在しないカンナビノイドを生成できるという。

キースリング教授は、2015年にカリフォルニア州で「デメトリックス」というスタートアップ企業を創設しており、酵母の発酵作用によるカンナビノイドの生成について、カリフォルニア大学バークレー校から技術の使用許諾も得ている。

キースリング教授は「大麻草由来のカンナビノイドと同等もしくはそれ以下のコストでテトラヒドロカンナビノール(THC)やカンナビジオール(CBD)を生成でき、汚染の心配もない」と期待を寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中