72分間の無差別テロをワンカット撮影で見せる『ウトヤ島、7月22日』
A Film About Victims
言葉では伝え切れない
01年の米9.11テロを正面から扱う映画が事件から5年後に公開されたとき、「時期尚早では」との議論があった。こうした大きな悲劇をめぐっては、遺族や経験者の感情もさまざまだ。
ポッペもこの映画をなぜいま撮るのか自問したが、「なぜ」については、「世間の人々は私たちの体験を理解していないのではないか」という生存者の声に後押しされたという。事件について多くの記事や本が記されてきたが言葉では伝え切れないものがある、映画ならそれができるのではないかということだ。
「今」であることを確信させたのは、ここ10~15年ほどの欧米の政治状況だ。外国人への憎悪やヘイトスピーチが増え、それがインターネットを飛び出し、政界まで広がっている。「そうした状況を肯定してはならないと伝えるためにも、今すぐ撮らなければと考えた」。ウトヤ島のテロもヘイトスピーチに扇動された人間によるものだった。
ただし、憎悪の言論をまき散らす人間をはじき出すのでなく、対話をしてみることが大事ではないか? ブレイビクのような人間がなぜ生まれるのかを考えることは政府や指導者ではなく、私たち自身の責任ではないか? 『ウトヤ島、7月22日』をそんな議論のきっかけにしてほしいと、ポッペは考えている。
<本誌2019年03月05日号掲載>
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