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全人代「日本の一帯一路協力」で欧州への5G 効果も狙う

2019年3月11日(月)13時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

3.ところで次世代移動通信システム5Gに関して、今年2月22日付のコラム<Huaweiめぐり英中接近か――背後には華人富豪・李嘉誠>で、Huaweiの5Gシステム規格をイギリスが採用する可能性が大きくなったことを書いた。

そこで中国は、「一帯一路」やAIIBでの当初の成功例を5Gに関しても適用していこうという戦略に出た。たしかに李嘉誠という華人の大富豪がHuawei(特にその創始者である任正非氏)を個人的に応援したという背景があるが、中国はこれをも最大限に活用して、先ずはイギリスを引き込み、あわよくばヨーロッパを切り崩したいと考えている。

4.3月8日のCCTVは、5Gに関して「ヨーロッパこそが主戦場です。ヨーロッパがどちらに傾くかによって、次世代移動通信システムの趨勢が決まっていくのです」と解説したのである。

日本が果たした役割

つまり、日本は「一帯一路」において、ヨーロッパ諸国が中国から離れていかないようにする役割を果たしたことになる。

そのお蔭で中国は「一帯一路」に協力し続けるか否か逡巡しているヨーロッパ諸国を中国側に引き戻し、5GにおいてもHuaweiシステムを使用するよう働き掛けていくことが容易になったわけだ。

3月5日夜の日テレBS「深層ニュース」では、この「一帯一路」に日本がどう対処していくかに関しても甘利元経済再生担当大臣と議論することとなり、甘利氏は「日本が"一帯一路"構想に協力する場合は、中国の思惑を打ち消すような条件を課すので、懸念には及ばない」と仰ったが、既にその「懸念」は、現実のものとして具現化している。世耕経済産業大臣など安倍政権は「中国との第三国における経済協力は、基本的に一帯一路とは関係ない」という弁明をしているが、中国も世界もそうは見ていないのである。

おまけに予想を超えて、5Gにまで影響を及ぼしているではないか――。

中国の強かな戦略を甘く見てはならない。

習近平国家主席は全人代閉幕後に、イタリアやフランスを歴訪することになっているが、「一帯一路」に関して話し合うと同時に、5Gに関しても説得するものと思われる。

中国は「一帯一路」沿線国の内の発展途上国に代わって人工衛星を打ち上げ宇宙からそれらの国々を実効支配しようとしている。Yahooのコラムにおいて「だから日本は一帯一路にだけは協力してはならない」と書きまくってきたし、拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』でも、力を込めて詳述した。しかし執筆時には、まさか同時に一帯一路沿線国を「5G」においても支配下に置こうとしているとは気づかなかった。3月8日にCCTVの全人代特別番組の解説を聞いていて、ハッとしたのである。

だから中国はなお一層、何としてもヨーロッパ諸国が一帯一路から離反していくことを防ぎたかったのだということを、今般改めて思い知らされた。そこに「5G」覇権への策略が隠されていたのだ。

それこそが、日本を「一帯一路」へ誘い込む真の狙いだったのかもしれない。

中国のその策略にまんまと嵌った日本の罪は、なおさら重い。

今からでも、引き返すべきだ。


endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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