ミャンマー、与党法律顧問暗殺事件の犯人2人に死刑判決 真相解明を阻む軍部の存在
法廷に出廷するチー・リン被告(手前中央)とアウン・ウィン・ゾウ被告(後方) Ann Wang - REUTERS
<アウンサンスーチーが実質的な国家元首となって3年となるミャンマー。だが、この国はいまだに軍部が目に見えぬ形で力をもっているようだ>
2017年1月、ミャンマーの与党「国民民主連盟(NLD)」の法律顧問のコー・ニー氏(当時63歳)が中心都市ヤンゴンの国際空港で銃弾を頭に受けて殺害される暗殺事件があった。この事件で殺人罪などに問われていたミャンマー人被告4人に対する判決公判が2月15日、ヤンゴンの北地方裁判所で開かれ、裁判長は実行犯ら2人に死刑判決、残る2人に懲役3年と5年の実刑判決をそれぞれ言い渡した。
事件はコー・ニー氏がインドネシアでのセミナーに出席後、ヤンゴンに戻り国際空港出口で迎えに来た孫を抱き上げて車を待っている間に起きた。左後方から近づいた私服の男性にコー・ニー氏は極至近距離から頭部を撃たれて死亡した。実行犯はその後、逃走中に追跡してきたタクシー運転手ネイ・ウィン氏も銃で殺害したが、駆けつけた群衆に取り押さえられて、逮捕された。
暗殺実行犯として計画的殺人と殺人、武器不法所持で逮捕、起訴されたチー・リン被告に対し、同地裁はコー・ニー氏の計画殺人罪で死刑、ネイ・ウィン氏殺害で殺人と武器不法所持罪で懲役23年の2つの判決を言い渡した。
さらに計画的殺人教唆容疑で元軍人のアウン・ウィン・ゾウ被告にも死刑判決が下されたほか、殺人ほう助罪と証拠隠滅罪に問われた元軍人のゼイヤー・ピュー被告に懲役5年、アウン・ウィン・トゥン被告に犯人隠匿罪で懲役3年の実刑判決が言い渡された。
現地からの報道によると、被告らは判決公判閉廷後直ちに警察車両に連行され、集まった報道陣の問いかけには一切応じることなくヤンゴン郊外のインセイン刑務所に戻ったという。
軍の関与は未解明、主犯は逃走中
ミャンマーが民政移行後も政治に影響力を維持している国軍は、2008年の憲法改正にあたって国民の多数派を占める仏教徒に優位で、反イスラム的な変更を主張した。これに対し与党NLDの法律顧問を務めるコー・ニー氏は、自らもイスラム教徒である立場から仏教徒にもイスラム教徒にも対等な改正案の実現を模索した。このことが軍の反発を招き、コー・ニー氏暗殺事件へ軍が関与したと指摘される背景になっている。
しかし2年間に約100回開かれた公判でも軍の関与は証明されることなく、あくまで元軍人らによる犯行と位置づけられた。暗殺事件を主導的に計画、実行の準備をしたとされるアウン・ウィン・カイン容疑者は事件後に捜査をかいくぐって姿を消しており、現在は国外逃走中とも言われる。
このように事件は全容解明にほど遠く、裁判では実行犯のリン容疑者を雇ったピュー被告が事件の首謀者とされたものの、検察側が十分な犯行の立証ができなかったことなどから、ピュー被告は4人の被告の中で最も軽い懲役3年の判決とされた。
この判決にはピュー被告以外の死刑判決を受けた2被告の家族や弁護士から「軽すぎる判決だ」「この判決には正義はない」などと批判が出ている。