最新記事

人種問題

黒人差別の「ブラックフェイス」、なぜ今も米国で政治に影響与えるタブーであり続けるのか

2019年2月13日(水)17時55分

米国には、白人が顔を黒く塗り、黒人を揶揄(やゆ)してきた苦い歴史がある。今週、バージニア州政府のトップ2人(民主党)が1980年代の学生時代に「ブラックフェイス」をしたことがあると認め、非難を浴びた。写真はその1人、バージニア州知事のラルフ・ノータム氏。同州リッチモンドで2日撮影(2019年 ロイター/Jay Paul)

米国には、白人が顔を黒く塗り、黒人を揶揄(やゆ)してきた苦い歴史がある。今週、バージニア州政府のトップ2人(民主党)が1980年代の学生時代に「ブラックフェイス」をしたことがあると認め、非難を浴びた。

米国では過去2世紀にわたり、こうした行為が続いている。数十年前と比べたら、それほど日常的には見られなくなったものの、アフリカ系米国人の学者は、今なお各地で存在しており、人種差別がある証拠だと指摘する。

今回非難を受けて謝罪したのは、バージニア州知事のラルフ・ノータム氏と同州司法長官のマーク・へリング氏だ。近年では、俳優でコメディアンのビリー・クリスタルや、深夜トーク番組の司会者で知られるコメディアンのジミー・ファロンら芸能人が黒塗りメイクを行っている。

●ブラックフェイスは米国でいつ始まったのか

南部でまだ奴隷制度が合法だった1830年代、ニューヨークで行われていた、歌や踊り、寸劇などが舞台で行われるボードビルショーの中に登場したのが最初だ。白人の演者が焼いたコルクや靴磨きクリームで顔を黒く塗り、プランテーションで働く黒人を怠け者で愚か者としてパロディー化した。

ワシントンにある国立アフリカ系米国人歴史文化博物館によると、醜く、誇張された容姿にぼろぼろの服を着た黒人に扮(ふん)する「ミンストレル」と呼ばれるこうした芸人は、奴隷にされた黒人を迷信的で性欲過剰な臆病者と揶揄した。

「奴隷制という考えを下支えした。本当にそのような人たちなら、もちろん奴隷として扱われるべきだ、とね」と、バージニア工科大学のウォーニー・リード氏は指摘する。

●なぜブラックフェイスは流行したのか

歌や音楽、メイクアップや衣装、おもちゃといったミンストレルの副次産業が19世紀半ばまで栄えた。当時はまだ南北戦争の真っただ中だった。1865年、北部の勝利により奴隷制は廃止された。黒人を中傷する歌は1880年代と90年代に人気を博した。

20世紀初頭には、黒人芸人が白人の観客から認められようとしてブラックフェイスを行った。米国映画初期の大作の1つである1915年製作の映画「國民の創生」では、ブラックフェイスの白人出演者たちが愚か者のように振る舞っている。シャーリー・テンプル、ジュディ・ガーランド、ミッキー・ルーニーといった米人気俳優も黒塗りメイクを行った。

「ブラックフェイスは初期のころから、愚かなニグロ、あるいは危険なニガーを演じるために行われてきた」と語るのは、元社会学教授で自身もアフリカ系米国人であるデービッド・ピルグリム氏だ。同氏はミシガン州ビッグ・ラピッズにあるフェリス州立大学に、人種差別の歴史を展示する博物館「ジム・クロウ・ミュージアム」を創設した。

ジム・クロウはミンストレルショーで最も有名なキャラクターの名前で、人種差別を認める南部各州で採用された法律の総称にもなっている。こうした法律は20世紀半ばまで存在していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中