タイ王女の首相選出馬に国王が反対声明 王室内の対立へ発展か
王族の政治的利用に当たるのか
今回の「王女の首相候補」は王女自身の了解があったとはいえ、親しい関係にあるというタクシン元首相との水面下の交渉の「成果」であることは明らかで、タクシン元首相にしてみれば王女がもし首相に選出されることになれば、軍政から訴追を受けてタイに帰国できずに「海外逃亡生活」を続けている現状に終止符を打ち、晴れて帰国、そして場合によっては依然として強い支持を背景に政界復帰の道さえ見据えている可能性が高い。
それだけに反タクシンの軍政、あるいは軍政ともタクシン派とも距離を置く「民主党」とその党首アピシット元首相らが「反タクシン」で一致団結する可能性は捨てきれない。
ただそうなるとウボンラット王女という「依然として王族の一員であり、国民の尊敬の対象であり、法律でその権威は守られている」(ワチラロンコン国王の声明)という特殊な立場のタクシン派首相候補を「敵」に回すことになりかねず、誰もが頭を抱える状況になっているといえる。
こうした様子をみて「ほくそ笑んでいる」のが海外にいるタクシン、インラックの兄妹で、「してやったり」と思っていることは確実だろう。
一方で国王が指摘する「王族の地位」が依然としてウボンラット王女にあるならば、タクシン派の動きは「王族の政治利用」にもなりかねず、国王の声明を背景に軍政側が今後反論を強めることも考えられるが、相手が「王女」だけに方法、戦術には相当神経を使うことは不可避だろう。
タイでは事態打開のために軍政による「再クーデター」の噂や「王室内の対立激化」を懸念する声も出始めている。2016年のプミポン国王死去の際に国民の間から後継国王就任への期待が高かったとされるワチラロンコン国王とウボンラット王女の妹にあたるシリトーン王女(63)がこの問題でどういう発言をするか、どう解決に動くかも注目されているが、シリトーン王女は最近体調を悪くしているといわれている。
首相は総選挙後に上院・下院で選出されることになっているが、野党が王女を首相候補と掲げたことで、総選挙は大きな波乱含みとなっており、タイ王室の内部問題や軍政の今後の去就とも関連して目が離せない状況となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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