最新記事

年金

60 歳を迎えて老後の生活資金を考える

2019年1月15日(火)19時00分
安孫子佳弘(ニッセイ基礎研究所)

(3)強いて言うと、おすすめは高配当の株式系の商品

現時点で、老後の生活資金用の資産運用でリスクをとって投資するのであれば、おすすめは短期的値上がりを狙う商品ではなく、長期的にある程度高めのインカムが期待できる商品ではないかと思う。老後の生活資金確保という目的から考えて、短期的な元本リスクがあまり高いものは回避すべきで、一定以上のインカムが期待でき、換金しやすく、分散投資になる商品を選択する必要がある。

こうした意味で、初心者向けとしては日経 225 や J-REIT の ETF や投資信託はお勧めできる。当然、株式系投資なので、価格は大きく変動するが、インカムに注目すると日経 225 で2%、J-REIT で4%程度が期待できる。個別企業の株式だと配当の安定度が心配だが、日経 225 というインデックスへの投資であれば、個々の企業業績にある程度の波があっても日経 225 全体でのインカムの安定性は分散により一定程度確保できると期待できる。J-REIT も中長期的に価格の変動は大きいものの、収入の源はオフィスや商業施設や住宅の賃料なので、長期的に一定水準以上のインカムが期待できる。

基本的な考え方としては、インカム目的で株式を分散して保有し続けるのであれば、中長期的なサイクルで価格が変動しても、インカムだけは毎年期待できるので、元本変動リスクはあまり考えなくても良いのではないかというものである。価格は下がってもいつかは戻るという楽観的な考えというお叱りを受けるかもしれないが、株式の長期保有における一つの考え方として紹介したい。

一方で、現在の低金利が好景気等で上昇し、2%とか一定以上の金利となった場合は、あまり欲張らずに資産運用残高の多くを預金や国債に移行することをお勧めしたい。

4――最後に 20 代、30 代の働く人たちへ貯蓄および投資のお勧め

以上、60 歳を迎えるに当たって、公的年金や確定拠出年金での各種選択における考え方を説明してきたが、20 代、30 代の会社員は是非とも老後の生活資金を今のうちから確保する努力をしてほしい。老後の生活資金を公的年金だけに頼るというのはリスクが高い。自助努力として確定拠出年金に加え、NISA、つみたて NISA 等、各種税制優遇の制度があるので、是非とも有効活用すべきだと思う

特に確定拠出年金は所得控除があり、実効税率が追加のリターンとなるため、現在リターンがほぼゼロの銀行預金や債券ファンドであったとしても確定拠出年金内で選択した方が得である。

ただ、長期的に見ると株式投資は価格が上昇していく傾向があるため、若い世代であれば、是非とも毎月定期的に確定拠出年金で国内株式、J-REIT や海外株式等に継続投資することをお勧めしたい。将来、50 歳、60 歳になってから、老後の生活資金確保の準備を開始しても、もう間に合わない可能性がある。その歳になると、資産を長期的に積み上げるという選択肢は少なくなる。長期的に高めのリターンが期待できる株式投資は中長期的なサイクルで値動きがあるため、残りが 10 年くらいしかない場合、そのサイクルを吸収できる時間、つまり株価の回復を待つ時間がないというリスクが高くなる。50 歳になってから、大きなリスクをとって資産運用に失敗してしまうと、老後の生活資金が不十分となりかねない。その場合、老後はひたすらコスト削減、つまりは節約するしかないことになる。

また、資産運用について基本的なことの勉強を是非お勧めしたい。経済見通し等に応じ、資産運用の状況を踏まえ、定期的に各資産への投資配分を見直しすべきなのだが、一定以上の知識がないと、どう見直して良いか分からないし、専門家に聞いても理解不能ということになりかねない。

自分の長い人生の中で、資産運用は住居の選定と同様に非常に重要な意思決定である。長期的に、老後も含め、安定した生活が送れるよう、無駄使いをせず、貯蓄に励み、良い投資をするなどして、家計面における適切な人生プランニングとなるよう実践していってほしい。

(参考情報)
・「年金の繰下げ受給」(日本年金機構):
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html
・「老齢基礎年金の繰下げ受給」(日本年金機構):
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-06.html
・「老齢厚生年金の繰下げ受給」(日本年金機構):
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-05.html
・「66 歳以後に受給を繰下げたいとき」(日本年金機構):
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/seikyu/20140421-31.html
・「確定拠出年金制度」(厚生労働省):
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/index.html
・「確定拠出年金の対象者・拠出限度額と他の年金制度への加入の関係」(厚生労働省):
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/taishousha.html
・「No.1420 退職金を受け取ったとき」(国税庁):
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
・「No.1600 公的年金等の課税関係」(国税庁):
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
・「金融商品取引業者一覧」(金融庁):
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kinyushohin.pdf
・「NISA とは」(金融庁):
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。

_2019-01-11-18.17.17.jpg[執筆者]
安孫子 佳弘 (あびこ よしひろ)
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 常務取締役 部長 CFA

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 7
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 8
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中