最新記事

中国社会

「中国発展の代償は我われの命」 経済成長支え使い捨てられた出稼ぎ労働者の嘆き

2018年12月24日(月)10時42分

安定の維持

労働者たちは、中央政府から厳しい非難を浴びており、彼らが何か言うと脅しをかけてくる、とロイターに語った。

中国当局は11月中旬、すべてのウェブサイトを対象に、珪肺に苦しむ湖南省の労働者に関する報道や公表を禁じた、と同国の検閲を調査しているチャイナ・デジタル・タイムスは指摘する。

著名な国営新聞社やテレビ局は2009年に彼らの苦境を報じたが、今年はこの問題について沈黙を守っている。

こうした検閲は、中国で過去5年間強化されてきた政治的な締め付けと整合するものであり、その背景には、中国南部に始まり全国に広がった学生・労働者による抗議行動に対する弾圧がある。

今年8月には約50人の学生や活動家が全国から深センに終結して、 溶接機器メーカー深セン佳士科技公司(JASIC)の工場における劣悪な条件に対して、工場労働者とともに抗議を行った。

「珪肺に苦しむ労働者の問題は、今年きわめてセンシティブなものになった。政府がJASICの事件と結び付けられることを恐れているからだ」とPun教授は語る。

労働者たちは今年11回、深センを訪れたが、まだ十分な補償は得られていないという。前出のGuさんによれば、労働者らはその症状に応じて、50万元─110万元の補償を求めている。

ロイターの記者が桑植県に到着して12時間も経たないうちに、地元警察は労働者に電話をかけ始め、地元の警察署に報告して、誰に会ったか確認するよう命じた。桑植県の警察はコメントを拒否している。

「当局は私たちを脅す方法を知り尽くしている。今のところ、恐がって外国のメディアとはいっさい関わろうとしない労働者は大勢いる」。Guさんはそう語り、市政府の当局者から、彼の電話とソーシャルメディアアカウントは監視されていると言われた、と付け加えた。

しかし、それより心配していることは、家族に残してしまいそうな巨額の借金だと彼は言い、自身の身の上を語ることに意味があるだろうかという疑問を繰り返し口にした。

「わが国は過去40年間で非常に急速に前進した。農家が必ずしも農家を続けなくても済むようになった。それは本当に素晴らしいことだ」。Wangさんは鼻腔に挿入したチューブで呼吸しつつ、物憂げに語った。隣家に面した小さな窓には、彼の肺のX線画像が掲げられていた。

「ベッドから起き上がれればと思う。出かけて、外の様子を知りたい」と彼は言う。「でも、私の命はそう長くないだろう」

(翻訳:エァクレーレン)

Sue-Lin Wong

[深セン(中国) ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250304issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月4日号(2月26日発売)は「破壊王マスク」特集。「政府効率化省」トップとして米政府機関をぶっ壊すイーロン・マスクは救世主か、破壊神か

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国2月製造業PMIは50.1、3カ月ぶり高水準 

ワールド

韓国輸出、2月は1%増に回復も予想下回る トランプ

ワールド

米政権、イスラエル向け30億ドル武器売却を議会に通

ワールド

米軍、不法移民対応で南部国境に1140人増派 総勢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中