マクロン主義は、それでも生き残る
Macron Can Survive France’s Anger
結局、マクロンの成績表は来年5月の欧州議会選挙で示されることになるだろう。最新の大半の世論調査では、国民連合への支持がわずかながらREMを上回っている。
選挙に負ければ、マクロンには大打撃になる。経済的な痛みを伴う改革の成果が出る前に、政治的な最後通告を突き付けられるかもしれない。
マクロンは強い指導者ではあるが、政治家として国民に寄り添う姿勢に欠けているようだ。サルコジやフランソワ・オランド前大統領と違って、彼は自説に固執してきた。
マクロンには、自身の改革を国民に受け入れてもらおうとする才覚が欠けているようだ。あるとき造園の仕事を求職中の若者に対し、「やる気さえあればホテルやカフェ、レストラン、建設現場でもどこでも働く場があるはずだ。そこら中で人手を探している」と発言。カフェやレストランが多いパリのモンパルナス地区へ行くよう勧めて、こう続けた。「私なら、あの通りを渡れば、きっと君に仕事を見つけてあげられる」
この発言は、仕事をあてがいさえすればいいという高圧的な姿勢や、一般人とは懸け離れた感覚が表れているとして物議を醸した。
自身の政策にこだわり続けるマクロンの姿勢に批判が集まる。だがREMのドミニク・ダビド議員は大統領が変えるべきは姿勢ではなく政策だと指摘する。
最大の敵は自分自身?
マクロンが今後邁進するのは目下の試練への対応ではなく、国会議員が地方政府の公職を兼務することを禁じる持論の憲法改正だろう。デモで新しいマクロンが誕生するとは期待しないほうがいい。
マクロンは「過激な自由主義者」とも言われるが、それは批判派の見方でしかない。ビル・クリントン元米大統領やトニー・ブレア元英首相ら90年代の「第三の道」の指導者のように、マクロンは市場原理を信じ、国家の歳出は効率を重視するべきだと考える。一方で、再生可能エネルギーへの転換や基礎研究、職業訓練と再訓練への投資などを提案し、一部は実行に移した。
だが黄色いベスト運動の参加者の言葉が象徴するように、温暖化を懸念するエリートは「世界の終わりについては話し合う」が、庶民が話し合っているのは「月末のやり繰り」だ。
たとえマクロンが人間味を増したにせよ、その先には苦痛が待っている。燃料税は二酸化炭素消費量を減らす対策としては必要な苦痛を伴う措置だが、他国の指導者は導入を避けてきた。
マクロンは、多くの有権者が弱いEUを求めるなかで、強いEUを模索している。ナショナリズムが台頭するなかで、多国間主義を断固として支持し、反移民運動を認めようとしない。
だからこそ、マクロンの今後を気に掛ける必要がある。フランスの「主権」や国家の栄誉に対するマクロン流のこだわりによって、リベラルな普遍主義と保守的なナショナリズムのどちらでもない中道が示される可能性があるからだ。
マクロン自身、CNNのインタビューで、イノベーションと人的資本への投資と、フランスの主権へのこだわりこそが「ナショナリストに対抗する最良の答え」になると語っている。
マクロンは主要国指導者の中で唯一、勇気ある政策を実行しようとしている。彼にとって自分自身が最大の敵となる可能性もあるが、私たちにできることは、マクロンの実験を注視し、最善を祈ることだけだ。
<本誌2018年12月18日号掲載>
※12月18日号(12月11日発売)は「間違いだらけのAI論」特集。AI信奉者が陥るソロー・パラドックスの罠とは何か。私たちは過大評価と盲信で人工知能の「爆発点」を見失っていないか。「期待」と「現実」の間にミスマッチはないか。来るべきAI格差社会を生き残るための知恵をレポートする。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら