最新記事

白人至上主義

米警察はネオナチより極左アンティファがお嫌い

California Police Tried to Charge Injured Antifa

2018年12月6日(木)15時40分
キャサリン・ヒグネット

アメリカではネオナチなど極右勢力に対抗する極左アンティファが台頭し、両者の衝突は年々増えている Elijah Nouvelage-REUTERS

<白人至上主義団体との衝突で刺傷させられたアンティファを、警察が執拗に捜査対象にしてきたことが分かった>

2016年6月26日、米カリフォルニア州サクラメントで白人至上主義団体が集会を開くと、それに抗議するアンティファ(アンチ・ファシストの略)の集団と衝突して暴動に発展。数名の活動家が刃物で切りつけられた。

英紙ガーディアンの報道によれば、警察は事件後、アンティファ100人の身元を調べ、暴動に関わったとして約500件を起訴するよう検察当局に勧告した。そのうちの8人は抗議中に刺されるか殴打されていた。

だが白人至上主義とつながりのある22人の男について警察が起訴勧告したのはわずか5件で、ほとんどが軽い罪だった。今のところ、刺傷では誰も起訴されていない。

暴動および暴行容疑で起訴されたアンティファ3人の代理人を務める弁護士たちは今週、裁判の審理が始まるのを前に、警察側がまとめた100件以上の報告書を読み返して新たな事実を明らかにした。

それらの報告書から、警察が2人のアンティファを起訴する根拠として、左派団体や先住民の人権団体とのつながりやソーシャルメディアの投稿などを利用していたことが分かった。

ガーディアンは以前、集会で負傷後に警察の捜査対象とされた2人の活動家に話を聞いた。そのうちの1人は暴動を扇動し自らもそれに参加した容疑で起訴された。新たな資料から、刺傷または殴打された抗議者がさらに6人、容疑者として警察に追われていたことも明らかになった。

アンティファが捜査の標的に

身元を特定されたアンティファ全員が警察の捜査対象になったと、ガーディアンは報じた。切りつけられて負傷した抗議者の1人を、警察は暴行や治安を乱した行為を含む10以上の容疑で起訴しようとしたという。彼が現場で持っていた木製のスケートボードは「殺傷力のある凶器」、バンダナは「顔を隠す道具」と見なされた。

警察は別のアンティファについても、「自ら負傷しながらも暴動に参加していた」という理由で起訴勧告した。彼は頭骨を骨折し、顔と頭部を打撲する重傷を負ったと、報告書に記載されていた。

白人至上主義団体の関係者で起訴されたのはウィリアム・スコット・プレーナー1人だけだったと、地元紙サクラメント・ビーは報じた。

アンティファ側では、イベット(イボンヌ)・フェラーカ、ポルフィリオ・パズ、マイケル・ウィリアムの3人が起訴された。そのうちフェラーカは、重傷を負ってなお起訴された唯一の活動家だった。

最近では12月1日にドイツ東部の町オストリッツで、右翼のロックバンドが出演したコンサート中に聴衆が法律で禁止されているナチス・ドイツのスローガン「ジークハイル」(勝利万歳)を叫び出したため、地元警察がコンサートを中止させる騒ぎがあった。

地元メディアの報道によれば、ドイツでは現在、逮捕状が出ている500人近くの極右の活動家が逃走中という。その相当数が、凶悪犯罪で指名手配されている。

(翻訳:河原里香)

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中