最新記事

人体

「血球は腸でも生成される」ことがわかった──腸移植の耐性を高める可能性

2018年12月5日(水)16時10分
松岡由希子

PhonlamaiPhoto-iStock

<米コロンビア大学の研究チームは、移植された腸にドナーの造血幹細胞が存在することを突き止めた>

赤血球や白血球、血小板といった血球は、従来、骨の中心部の骨髄にある造血幹細胞からつくり出されていると考えられてきた。しかし、このほど、米コロンビア大学の研究チームは、腸移植を受けた患者の血液にドナーの血球が含まれていることに気づき、移植された腸にドナーの造血幹細胞が存在することを突き止めた。

患者の体内で循環する血液の中にドナーの血球が多く含まれるほど腸移植後の拒絶反応を緩和できることから、移植を受けた患者の術後経過の大幅な改善につながる成果として注目されている。

移植された腸に造血幹細胞が存在

米コロンビア大学のメーガン・サイクス教授らの研究チームは、腸移植を受けた患者21名を5年にわたって追跡調査し、2018年11月29日、その研究論文を幹細胞領域の専門学術雑誌「セル・ステムセル」で発表した。

これによると、ドナーから移植された腸には造血幹細胞をはじめとする複数種の前駆細胞が存在し、ドナーの造血幹・前駆細胞(HSPC)は患者のリンパ球表現型に寄与していた。また、長期間にわたって患者の体内を循環するドナーのT細胞は、患者に対して耐性を持っていたという。リンパ球は免疫をつかさどる白血球の一部であり、T細胞はリンパ球の一種だ。

つまり、これらの現象は、移植された腸の中にあるドナーの造血幹細胞から白血球が生じ、患者の組織に耐性を持つよう"教育"された一方で、移植後に患者の体内で生成された白血球もドナーの組織に耐性を持つようになったことを示している。

sykes_a.jpg

移植された腸に造血幹細胞が存在した: Megan Sykes/Columbia University

移植への耐性を高められるか研究

患者に他者の臓器を移植すると、患者の体内の免疫系がこれを異物と認識して、排除しようとする。そこで、臓器移植後の治療では、強力な免疫抑制剤によってこのような拒絶反応を鈍らせるようにするが、同時に、患者が感染症や合併症にかかりやすくなってしまうという面がある。とりわけ、腸移植は、他の臓器よりも移植後に拒絶反応が起こる確率が高く、免疫抑制から生命を脅かす合併症を引き起こすおそれもある。

サイクス教授は、今回の研究成果をふまえ、「ドナーの血球が体内で多く循環している患者は、現在の治療で行われているほど多くの免疫抑制は必要ないのかもしれない」とし、「免疫抑制の軽減することで、術後経過を改善できるのではないか」と期待を寄せている。研究チームでは、今後、腸移植の際に、ドナーから移植する造血幹細胞の数を増やし、移植への耐性を高められるかどうかについて、さらに研究をすすめる方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ氏のロシア産原油関税警告、市場の反応は限定

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、突っ込み警戒感生じ幅広く

ワールド

イスラエルが人質解放・停戦延長を提案、ガザ南部で本

ワールド

米、国際水域で深海採掘へ大統領令検討か 国連迂回で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中