米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑
つまり、中国は何としてもクァルコムを中国を中心として事業展開する半導体メーカーに留めておきたかったのに、それが許されなくなった以上、クァルコムがNXPを買収して拡大することなど、容認できないと考えたのだろう。だから独禁法を理由に買収に反対したのだが、習近平はこのたび、「クァルコムが再度買収の意思表示をしたら承認します」と、トランプに直接告げたわけである。これは一種の降参だ。
その埋め合わせは日本を使って
しかし、その埋め合わせを習近平はきちんと計算している。日本に接近し、日本からの半導体を輸入することによって2025年までを持たそうとしているのである。もちろん、日本にはクァルコムに相当したようなハイレベルの半導体を製造するだけの技術はない。その技術を持っているのは中国の民間企業である華為(Hua-wei、ホァーウェイ)専属の子会社ハイシリコンである。しかしハイシリコンはホァーウェイに対してのみ半導体の成果を提供し、絶対に他社には渡さない。
そこで中国は、11月23日のコラム<米中対立における中国の狡さの一考察>で触れたように、清華大学の校営企業から出発した「清華紫光集団」(ユニグループ)が買収したスプレッドトラムや長江ストレージなどに集中的に投資して「紅い半導体」の強化を図ろうとしている。ユニグループは今では中国政府との混合所有制を実施していて、一種の国有と位置付けてもいい存在だ。
ZTEを見放したわけではないが、その代替を「清華紫光集団」に賭け、アメリカからの締め付けによる半導体業界全体の欠損は、日本との交流で埋め合わせる算段なのである。
それも「用済み」となる日は、まもなくやってくる。
日本のメディアでは、安倍首相が米中の橋渡し役を果たしたなどという文言が散見されるが、そんな中国ではない。日本を利用しているだけであることを忘れてはならない。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。