最新記事

米中貿易摩擦

米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑

2018年12月3日(月)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

習近平国家主席(11月20日、フィリピンのマニラで) Mark Cristino/ Reuters

G20における米中首脳会談で習近平は、かつて反対した米半導体大手・クァルコムによるオランダ大手NXP買収を承認したが、そこには「中国製造2025」の隠れた戦いがある。これこそが習近平の日本接近への原因の一つでもある。

米中首脳会談における合意

トランプ大統領と習近平国家主席は、12月1日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20 閉幕後に首脳会談を行なった。会談における主だった合意は以下の通りである。

1. 来年1月からの追加関税拡大を当面はせず、90日間の猶予期間を与える(その条件として中国はアメリカの大豆などの農産物の輸入を増やす)。

2. ただし、90日以内に中国の「強制的な技術移転、知的財産侵害、サイバー攻撃」などの改善に関して米中間で合意がなされなければ、追加関税拡大を実施する可能性がある。

3. 中国がかつて反対した米半導体大手クァルコム(Qualcomm)によるオランダの半導体大手NXPの買収承認を前向きに検討する。

中国はなぜクァルコムによるNXP買収に反対したか

米最大手の半導体メーカーで、世界一でもあるクァルコムは、オランダのNXPセミコンダクターズを買収すべく、関係国(両社の株主やヨーロッパ、アメリカなど)の承認を得ていたが、中国が独禁法に違反するとして反対したため、今年7月25日、買収を断念せざるを得ないところに追い込まれていた。

トランプ政権が今年8月の国防権限法でアメリカとの取引を禁止した中国の国有企業ZTE(中興通訊)がハイテク製品を製造するために用いる半導体は、ほとんどクァルコムから輸入していた。

1985年にカリフォルニア州のサンディエゴ市に創立されたクァルコムは、中国語では「高通公司」と称され、1990年台後半から中国に根を下ろしていた。2016年までは中国共産党の機関紙「人民日報」や中国政府の通信社・新華社などが、盛んに「植根中国」(中国に根を下ろしている)としてクァルコムを絶賛していた。

したがって中国政府が育ててきたハイテク産業の大手国有企業であるZTEのカウンターパートにもクァルコムを選び、ZTEはクァルコムの半導体を購入する以外の方法ではハイテク製品を製造できないほどの切り離せない緊密な関係になっていた。

11月22日付のコラム<米中対立は「新冷戦」ではない>でも触れたように、クァルコムのジェイコブス会長兼CEOは、長いこと清華大学経済管理学院顧問委員会の委員だった。習近平のお膝元にいたのである。

そのクァルコがオランダの大手半導体メーカーであるNXPを買収しようと計画したのは2017年初頭のことだ。

習近平政権が2015年5月に「中国製造2025」を発布して、2025年までに中国が必要とする半導体の70%の自給自足を完遂させようと走り始めた矢先のことである。2025年までは何としてもクァルコムの支援が必要だった。

しかしトランプ政権になってから中国のハイテク産業への締め付けが厳しくなってきた。クァルコムの存在は中国にとって不可欠なほど重要だったのに、アメリカ議会は国防権限法を可決してZTEとの取引を禁止してしまった。

それに伴いクァルコムのジェイコブス会長兼CEOの名前は、今年10月末に顧問委員会リストから消えてしまったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中