米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑
習近平国家主席(11月20日、フィリピンのマニラで) Mark Cristino/ Reuters
G20における米中首脳会談で習近平は、かつて反対した米半導体大手・クァルコムによるオランダ大手NXP買収を承認したが、そこには「中国製造2025」の隠れた戦いがある。これこそが習近平の日本接近への原因の一つでもある。
米中首脳会談における合意
トランプ大統領と習近平国家主席は、12月1日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20 閉幕後に首脳会談を行なった。会談における主だった合意は以下の通りである。
1. 来年1月からの追加関税拡大を当面はせず、90日間の猶予期間を与える(その条件として中国はアメリカの大豆などの農産物の輸入を増やす)。
2. ただし、90日以内に中国の「強制的な技術移転、知的財産侵害、サイバー攻撃」などの改善に関して米中間で合意がなされなければ、追加関税拡大を実施する可能性がある。
3. 中国がかつて反対した米半導体大手クァルコム(Qualcomm)によるオランダの半導体大手NXPの買収承認を前向きに検討する。
中国はなぜクァルコムによるNXP買収に反対したか
米最大手の半導体メーカーで、世界一でもあるクァルコムは、オランダのNXPセミコンダクターズを買収すべく、関係国(両社の株主やヨーロッパ、アメリカなど)の承認を得ていたが、中国が独禁法に違反するとして反対したため、今年7月25日、買収を断念せざるを得ないところに追い込まれていた。
トランプ政権が今年8月の国防権限法でアメリカとの取引を禁止した中国の国有企業ZTE(中興通訊)がハイテク製品を製造するために用いる半導体は、ほとんどクァルコムから輸入していた。
1985年にカリフォルニア州のサンディエゴ市に創立されたクァルコムは、中国語では「高通公司」と称され、1990年台後半から中国に根を下ろしていた。2016年までは中国共産党の機関紙「人民日報」や中国政府の通信社・新華社などが、盛んに「植根中国」(中国に根を下ろしている)としてクァルコムを絶賛していた。
したがって中国政府が育ててきたハイテク産業の大手国有企業であるZTEのカウンターパートにもクァルコムを選び、ZTEはクァルコムの半導体を購入する以外の方法ではハイテク製品を製造できないほどの切り離せない緊密な関係になっていた。
11月22日付のコラム<米中対立は「新冷戦」ではない>でも触れたように、クァルコムのジェイコブス会長兼CEOは、長いこと清華大学経済管理学院顧問委員会の委員だった。習近平のお膝元にいたのである。
そのクァルコがオランダの大手半導体メーカーであるNXPを買収しようと計画したのは2017年初頭のことだ。
習近平政権が2015年5月に「中国製造2025」を発布して、2025年までに中国が必要とする半導体の70%の自給自足を完遂させようと走り始めた矢先のことである。2025年までは何としてもクァルコムの支援が必要だった。
しかしトランプ政権になってから中国のハイテク産業への締め付けが厳しくなってきた。クァルコムの存在は中国にとって不可欠なほど重要だったのに、アメリカ議会は国防権限法を可決してZTEとの取引を禁止してしまった。
それに伴いクァルコムのジェイコブス会長兼CEOの名前は、今年10月末に顧問委員会リストから消えてしまったのだ。