インドネシア当局、K-POPアイドルBLACKPINKのCM放映中止を要請 イスラム的道徳観では「淫らで下品」
当局はCMを「極めて煽情的、淫ら」と判断
こうした内容のCMに対し、テレビ放送などの番組、CMを監督、審査している国家放送委員会は11日に同CMを放映している11局のテレビ局に対し「国民の多数を占めるイスラム教の道徳的規範を無視したものである」として「放映の中止」を求めた。
放送委員会のハーディ・ステファノ委員長は発表した声明の中で「CMを製作する上で企業はインドネシア社会に与える否定的な影響を考慮する必要がある」と述べている。
この措置に対しネット上ではBLACKPINKの熱烈なファンから不満と抗議が上がる一方で「このCMが子供番組の間に流れている」として「CMの即時放送中止」を求めるオンライン署名活動が始まり、すでに約11万人がCMに反対する立場を示しているという。
問題の渦中にある「ショッピー」社は国家放送委員会の指摘について「非常に価値のある考え、アドバイスである」と冷静に受け止める姿勢をこれまでのところは示している。
しかしその一方で同社は「このCMは事前に別の政府機関にみてもらい、承認を得ていた内容である」ということも明らかにしている。
このニュースを伝える地元のメディアには「BLACKPINKの服装のどこが淫らで下品というのだ。同じような服装をしたインドネシア人女性はショッピングモールにいけばいくらでもいるではないか」と抗議の声が寄せられている。12日夜の時点で民間放送GTVなどでは依然としてBLACKPINKの問題のCMは流されていた。
歪む多様性の中の統一、寛容性
イスラム教を国教とせず、宗教の自由、表現の自由、言論の自由を認めるインドネシアではあるが、最近はイスラム教急進派や保守派、そして一部の過激派が世俗的な社会風潮を排除しようとする動きを強めている。
そしてそうした動きの犠牲になっているのがLGBT(性的少数者)と呼ばれる人々やキリスト教徒や仏教徒などの宗教的少数者などで、イスラム教の規範やモラル、価値観を少数者に押し付けるような事案が頻発している。
2019年4月に大統領選挙、国会議員選挙を控えたインドネシアでは、人口の88%を占めるイスラム教徒の組織票をいかに取り込むかが選挙の勝敗を決めることもあり、こうしたイスラム教徒の動きに対して強い姿勢、態度をとりにくい状況が生まれていることも事実である。
今回のBLACKPINKのCM騒動も、大学講師という人物が国家放送委員会を訪れて同CMの放映中止を求めたことが事の発端といわれ、こうした告発、密告で一般的な価値観が問われるケースも増えている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国インドネシアは今、価値観、倫理観、宗教観などを巡り、試練の時期を迎えているといえる。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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