最新記事

音楽

インドネシア当局、K-POPアイドルBLACKPINKのCM放映中止を要請 イスラム的道徳観では「淫らで下品」

2018年12月13日(木)15時46分
大塚智彦(PanAsiaNews)


放送禁止要請が出されたBLACKPINK出演のCM SHOPEE Indonesia / YouTube

当局はCMを「極めて煽情的、淫ら」と判断

こうした内容のCMに対し、テレビ放送などの番組、CMを監督、審査している国家放送委員会は11日に同CMを放映している11局のテレビ局に対し「国民の多数を占めるイスラム教の道徳的規範を無視したものである」として「放映の中止」を求めた。

放送委員会のハーディ・ステファノ委員長は発表した声明の中で「CMを製作する上で企業はインドネシア社会に与える否定的な影響を考慮する必要がある」と述べている。

この措置に対しネット上ではBLACKPINKの熱烈なファンから不満と抗議が上がる一方で「このCMが子供番組の間に流れている」として「CMの即時放送中止」を求めるオンライン署名活動が始まり、すでに約11万人がCMに反対する立場を示しているという。

問題の渦中にある「ショッピー」社は国家放送委員会の指摘について「非常に価値のある考え、アドバイスである」と冷静に受け止める姿勢をこれまでのところは示している。

しかしその一方で同社は「このCMは事前に別の政府機関にみてもらい、承認を得ていた内容である」ということも明らかにしている。

このニュースを伝える地元のメディアには「BLACKPINKの服装のどこが淫らで下品というのだ。同じような服装をしたインドネシア人女性はショッピングモールにいけばいくらでもいるではないか」と抗議の声が寄せられている。12日夜の時点で民間放送GTVなどでは依然としてBLACKPINKの問題のCMは流されていた。

歪む多様性の中の統一、寛容性

イスラム教を国教とせず、宗教の自由、表現の自由、言論の自由を認めるインドネシアではあるが、最近はイスラム教急進派や保守派、そして一部の過激派が世俗的な社会風潮を排除しようとする動きを強めている。

そしてそうした動きの犠牲になっているのがLGBT(性的少数者)と呼ばれる人々やキリスト教徒や仏教徒などの宗教的少数者などで、イスラム教の規範やモラル、価値観を少数者に押し付けるような事案が頻発している。

2019年4月に大統領選挙、国会議員選挙を控えたインドネシアでは、人口の88%を占めるイスラム教徒の組織票をいかに取り込むかが選挙の勝敗を決めることもあり、こうしたイスラム教徒の動きに対して強い姿勢、態度をとりにくい状況が生まれていることも事実である。

今回のBLACKPINKのCM騒動も、大学講師という人物が国家放送委員会を訪れて同CMの放映中止を求めたことが事の発端といわれ、こうした告発、密告で一般的な価値観が問われるケースも増えている。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国インドネシアは今、価値観、倫理観、宗教観などを巡り、試練の時期を迎えているといえる。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ

ワールド

イスラエルとヒズボラ、激しい応戦継続 米の停戦交渉

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ

ワールド

南ア中銀、0.25%利下げ決定 世界経済厳しく見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中