最新記事

ISSUES2019

2019年の中国を読む:「新皇帝」習近平の内憂外患

CHINA IN 2019: WHAT LIES AHEAD?

2018年12月26日(水)17時35分
ミンシン・ペイ(クレアモントマッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長)

magSR181226-4.jpg

北京のモーターショーで、中国の電気自動車メーカーNIOが発表したラグジュアリー車に試乗する中間層の市民 DAMIR SAGOLJ-REUTERS

2018年にも日本との和解を模索した習は、さらに日中関係の改善を図るだろう。2019年の日本への公式訪問は極めて重要なものになる。だが習がどれほど頑張っても、効果は限られる。安倍晋三首相は、象徴的あるいは戦略的な善意のそぶりにだまされそうもないからだ。

新たな微笑外交の一環として、中国は東アジアにおける攻撃的な領有権の主張を少し和らげるかもしれない。台湾への圧力も緩むはずだ。独立志向の与党・民主進歩党が2018年11月の地方選挙で惨敗を喫したことで、中国は安堵したからだ。

中国の軍部は南シナ海で人工島の建設を続けているが、海上で偶然に米中の紛争が勃発する可能性は減った。中国は無敵の米第7艦隊との交戦も、アメリカとの緊張関係を無駄に高めることも望んでいないからだ。

国内に関しては、2019年はひたすら苦境を切り抜けていく年になりそうだ。表面的には、政治は安定しているようにみえる。習の権力に差し迫った脅威を与えるものはない。だがエリート層には、習の絶大な権力に対する不安と疑念が広がっている。

習がこの6年で推進した政策は、約束した成果を上げていない。多くの国民が一定の軌道修正を望んでいる。そこには、習が展開する個人崇拝的な宣伝や思想統制を抑え、民間部門との信頼関係を再構築し、一帯一路構想のような壮大な戦略の規模縮小などが含まれるだろう。

だが12月18日に改革開放政策40周年記念大会で行った習の演説からすると、軌道修正がすぐに行われる可能性は低い。この演説で、習は2012年以来の自分の実績を擁護した。2019年にその流れを変えることは考えにくい。独裁者による自発的な路線変更は弱さの証しで、挑戦者に付け入る隙を与えることになってしまうからだ。

従って、国内政策で最も可能性が高いのは漸進的な調整であり、臨機応変な対応だ。全体として、中国が向かう方向が明確に示されることはない。習とその取り巻きは不測の事態に反応し、当座の対策でその場をしのごうとするだろう。

こうした応急手当ては、中国が2019年を乗り切る役に立つかもしれないが、この国が国内外で抱える根本的な危機の解決にはつながらないだろう。それどころか、危機は確実に深まっていきそうだ。

<2019年1月1/8日号掲載>

※2019年1月1/8日号「ISSUES2019」特集はこちらからお求めいただけます。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中