最新記事

韓国事情

不況でも韓国企業の体力を奪う傍若無人の労働組合

2018年11月29日(木)17時15分
佐々木和義

現代自動車労組は「光州型雇用」にも反対する。韓国南東部の光州広域市は平均年俸4000万ウォンの労働者1000人で年間10万台を生産する自動車工場の建設を計画する。政府と光州市が住宅、教育、医療、育児などの施設を支援し、賃金の一部を補填する内容で、市は直接雇用と間接雇用とを合わせて1万人規模の雇用創出効果を見込んでいる。賃金を抑える代わりに雇用を増やすというこの計画に、現代・起亜自動車は前向きだが、高給取り組合員の既得権を守り、平均年俸9400万ウォンのいわゆる「貴族労組」は反発を強めている(中央日報)。

経営危機から脱した韓国GMも労組に悩まされている。2018年4月、富平(プピョン)本社の社長室に組合員数十人が押しかけ、暴れ回ったあげく鉄パイプを振り回して什器を破壊した。法定管理の危機に置かれた会社が成果給を払わないという理由で、労組は会社側の研究開発法人の分離推進に反対し、幹部ストや青瓦台(大統領府)前での座り込みなどをしながら会社に圧力を加えている。

ルノーサムスン自動車労組も2018年10月初めに賃金引き上げを要求して4年ぶりのストを行なっており、7四半期連続で赤字に陥った双竜(サンヨン)自動車は労組の反発などで解雇者119人を復職させることになった。

労組が若者の就職する道を妨げる

こうした動向の中で、現代・起亜自動車は、1996年に建設した牙山(アサン)工場を最後に韓国内に工場を建設していない。貴族労組の手が届かない中国、インド、南米、米国に19カ所の工場を建設し、組合員数を上回る5万人の雇用を生みだしているのだ。

韓国のマスコミが'貴族労組'と呼ぶ自動車等の労働組合に同調する消費者はいない。韓国の労働組合加入者は全労働者の10.4%に過ぎず、民主総連の組合員はわずか3.4%である。この既得権を守る'貴族労組'は会社経営を圧迫するが、しわ寄せを受けるのは会社だけではない。9割の組合に属さない労働者は、貴族労組の高賃金が商品代金に転嫁されることを憂い、品質低下を懸念する。労組は会社が新卒者を採用する体力を奪い、若者が就職する道を妨げている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中