最新記事

歴史問題

徴用工判決が突きつける「日韓国交正常化の闇」 韓国大法院判決全文の熟読で分かったこと

2018年11月9日(金)18時55分
五味 洋治(東京新聞 論説委員)*東洋経済オンラインからの転載

誤解の多い個人の請求権についても判決文は触れている。

自分の財産などを毀損された場合、相手に補償や賠償を求めることができる「請求権」は、そもそも人間の基本的な権利とされており、消滅させることはできないとの見解が多い。もし消滅させたければ、協定にその旨を明確に書く必要があるが、日韓請求権協定には書かれていない。請求権をめぐる問題が「完全に解決」と書かれているだけで、無くなったのか、まだ有効なのかはっきりしない。

この表現に落ち着いた意味を、判決文はこう説明している。「請求権協定締結のための交渉過程で日本は請求権協定に基づいて提供される資金と請求権との間の法律的対価関係を一貫して否定し」てきた。

筆者が補足すれば、請求権に関する協定と言いながら、請求権の対価として無償で3億ドルを出すのではないと日本側は主張していたのだ。この指摘は重要だ。日本側は植民地支配を合法だとしていたので、謝罪や賠償の意味を持つ「請求権」の中身をあいまいにしておきたかったということだ。

3億ドルの無償支援は「独立祝い金」

事実、3億ドルの性格については椎名悦三郎外相は次のように答弁している。

「請求権が経済協力という形に変わったというような考え方を持ち、したがって、 経済協力というのは純然たる経済協力でなくて、 これは賠償の意味を持っておるものだというように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこの間に関係はございません。あくまで有償・無償5億ドルのこの経済協力は、経済協力でありまして、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちを持って、また、新しい国の出発を祝うという点において、 この経済協力を認めたのでございます」(第50回国会参議院本会議1965年11月19日)

有名な「独立祝い金」答弁である。

請求権についても1991年8月27日の参院予算委員会で、当時の柳井俊二外務省条約局長が、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」と明言している。

ここで、日本政府の外交上の知恵というか、トリックが暴かれている。
請求権協定は結んだが、請求権に応じたのではない。経済支援なのだ。この支援で納得し、提訴など権利を主張しないと約束してくれれば支払う。この条件を、当時韓国側もあうんの呼吸で受け入れた。だから国交正常化が実現したということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インテルとTSMC、合弁事業設立で暫定合意=報道

ビジネス

NY外為市場=ドル対円・ユーロで6カ月ぶり安値、ト

ビジネス

米国株式市場=ダウ1679ドル安・ナスダック約6%

ビジネス

FRB、政策変更前に指標見極め 不確実性高い=クッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中