最新記事

王室

ベルギー王室、ダブル不倫と隠し子認知問題に揺れる

2018年11月9日(金)18時00分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

その年のクリスマスのお言葉でアルベール2世は、「王妃と私は30年以上前に危機に瀕していましたが、この困難を乗り越え、深い絆と愛情を取り戻しました。最近、この危機がまた蒸し返されました。この私達の私生活に属する問題を長々と話す気はありません。しかし今日、同様の問題に遭遇した人々は、私たちの経験に希望を見出せるでしょう。私たちはとても幸せなのです」と暗示した。

だがそのあとも、デルフィーヌさんへの認知は拒み、ついに2012年6月、デルフィーヌさんは国王アルベール2世を相手に認知訴訟を起こした。その理由を、国王の隠し子であることが公然の秘密になってため、英国の銀行から証明を求められているが出せないため怪しい人物にみられて口座を閉鎖するといわれているなど、さまざまな被害を被っているからと説明している。

ベルギーは世界で一番古い立憲君主制の成文憲法をもつ国で、国王は不可侵となっている。そこで、この訴訟が成立するのか否かの憲法論争にまで発展した。

DNA鑑定を頑なに拒否

そうこうするうちに、アルベール2世が退位した。そこで、デルフィーヌさんは、前の訴訟を取り下げ、あらためて、新しい訴訟を起こした。

憲法で不可侵が定められているのは、国王だけである。退位したアルベール2世はもはや国王ではないので憲法の規定の適用外となる。そこでこの訴訟は簡単に受理された。

ボレル氏はDNA鑑定を受け、デルフィーヌさんの父ではないことがはっきりした。だが、アルベール2世は鑑定をかたくなに拒否しつづけた。

第1審は、「ボレル氏は生物学的な父親でなくても、父と子としての愛着が結ばれていたので事実上の父子である」という不思議な判決だったが、控訴裁判所は「権利上も事実上も父子ではない」としたのである。

命令が出ていてもDNAテストを拒否することは出来る。しかし、デルフィーヌさんの弁護士は「テストを受けなければ、父であることの明らかな証拠だ」という。

フランス語圏の「ル・ソワール」紙の論説はいう。

「アルベール2世がデルフィーヌ・ボレルの父親であるかどうかがわかるテストをやりさえすればずっと『簡単』だっただろう。ずっとまえに一件落着だ」

たしかに、先王に庶子がいたことが判明したら、金銭、家族、儀礼その他の結果に対処しなければならなかったであろう。 しかし、娘と国王があらゆる法的手段を使って対立するよりもずっと穏やかで、双方に損害が少なかったのではないか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのミサイルがイラン拠点直撃、空港で爆発音

ワールド

ロシア凍結資産、G7がウクライナ融資の担保に活用検

ビジネス

リスクオフ加速、日経1200円超安 イスラエルがイ

ワールド

トランプ氏口止め事件公判、陪審員12人選任 22日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中