同性キス写真で拘束、女装には消防車で放水リンチ LGBTへ人権侵害続くインドネシア
こうした自警団の行為に対しインドネシア法律援護協会(LBH)は、自警団が行った行為はいかなる法律にも基づいていない人権侵害行為であると非難。「インドネシアの法律は非人道的行為を認めていない。夜間に公の場所で人間に放水するなど自警団員の私的な正義感の解釈に基づくもので容認できない」としている。
インドネシアではイスラム法(シャリア)が適用されているスマトラ島北部のアチェ州以外では同性愛は違法ではなく、LGBTの基本的権利は守られていることになっている。しかしそれはあくまで建て前で、インドネシアではLGBTへの弾圧、迫害、人権侵害が往々にして行われ、警察当局や行政当局も救いの手を差し伸べることをほとんどしないのが現状である。
「男性復帰」の訓練、再教育も
インドネシアではこれまでにも男性の同性愛者への人権侵害事件がたびたび発生、国際社会から手厳しい批判を受けている。
2017年10月には首都ジャカルタで警察によるサウナ施設の一斉手入れが行われ、客の同性愛者、従業員、オーナーなど58人が逮捕されている。近隣住民から「売春施設ではないか」との苦情を受けた警察が内偵捜査をした後、踏み込んだという。逮捕者の中には中国人、タイ人、オランダ人の外国人6人も含まれていた。
さらに2018年1月28日にはイスラム法が施行されているアチェ州でやはり同性愛者がよく仕事をしている理髪店が摘発され、男性同性愛者12人が拘束された。(「インドネシア、警察が同性愛者に「男性復帰」を強制指導」参照)
この時拘束された同性愛者は拘留施設で男性の服装に着替えさせられ、長髪を坊主頭にされ、男性らしさを取り戻すための歩き方、発声練習などを強制されて「男性復帰の再教育」を受けさせられた。
LGBTから「私たちも同じ人間」と訴え
ランプン州のLGBT団体では今回のトランスジェンダー3人の身柄拘束に関連して当局に訴追しないように要請するとともに「私たちも同じ人間であるという現実を見つめてほしい。警察・軍・自警団などの人に、性的な志向に関わらず私たちも他のインドネシア人と同じ権利があるということを理解してほしい」と訴えている。
地元からの情報によるとこれまでのところ、3人に対して放水をした自警団関係者に対しては、警察の取り調べなどは一切行われていないという。
インドネシアは2019年4月に大統領選、国会議員選を控え、大多数のイスラム教徒の意向に配慮することが得票獲得には不可欠なことから、イスラム教徒の行動に政治家、治安組織などが歯止めをかけることが難しくなっている。今後さらに「少数派」への人権侵害事案が増大することが懸念されている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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