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ミャンマー

ロヒンギャ弾圧でスーチーへの同情が無用な理由

2018年10月27日(土)14時30分
前川祐補(本誌記者)

――ロヒンギャ問題に対する日本政府の対応にも不満だ。

何が日本政府を消極的にさせているのか知らないが、もっと自信を持ってロヒンギャ問題について発言してほしい。私の家族や古い軍関係者の中には日本に支配された過去についてはよく思っていなかったこともあるが、戦後の日本はほぼ全てのミャンマー人の憧れであり続けている。これは決してお世辞ではない。

――専門家や元外交官、関係者への取材を総合するに、(1)ロヒンギャ問題でミャンマー政府にたてつき日本がミャンマー市場で経済的不利益を被る可能性、(2)その結果、ミャンマーに対する中国の影響力が増すことを懸念しているようだ。

その考えは間違いだ。(2)についていえば、ミャンマー人の愛国心がどれだけ強いかを知れば、そんな心配は無用だ。

ミャンマーにおけるガス、オイル産業をみてもわかるが、中国企業が乗っ取るようなことは起きていない。多くの外国企業を競わせて合理的に産業開発をしている。ミャンマー軍は、中国に対して根源的な恐怖を抱いているため中国の軍門に下ることなどありえない。繰り返すが、ミャンマー人は非常に愛国主義的だ。多くの国民やビジネスマンは、中国が南下政策でラオスやカンボジアにどれだけの影響力をおよぼし、どのような状況になっているかを知っている。だからミャンマーが中国から支配的な影響を受けることを絶対に由としない。

だが、日本に対してそうした感情は一切ない。日本に対してあるのは尊敬と憧れだ。日本の教育水準、技術力、習慣、性格、謙虚さ――。そうしたことをよく知る現代のミャンマー人は、日本が再びこの地域を植民地にするなど誰も思っていない。事実、東南アジア諸国はもはや日本に対して公式謝罪など求めたことはない。
 
日本政府は明らかに日本の外交力とリーダーシップを過小評価している。外交官や政治家がこうした考えを対外的に主張しづらいのであれば、メディアを含めたインテリ層がもっと声を上げるべきだ。

――ロヒンギャの人権を守るためのモンザルニ氏の活動は非常にエネルギッシュで、思いが伝わってくる。それでも、稀有な立場で活動を続けていることに変わりはない。複雑な思いがあるのでは?

自身が特別な存在だとは思っていない。今となっては、軍の家系に生まれたことも、仏教徒であることも、ひいてはミャンマー人であることに対するこだわりもない。そうした呼称からは卒業してしまった。

少なくともこの問題においては、1人の人間として、ごく当たり前の尊厳を守る存在でありたい。ただそれだけのことだ。

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