最新記事

アジア

アジア各国が気付き始めた中国「一帯一路」のヤバさ パキスタンも「借金の罠」に尻込み

2018年10月5日(金)17時00分

9月1日、中国が掲げる「現代版シルクロード」構想の中央に位置するパキスタンでは、植民地時代に造られた鉄道路線の改修プロジェクトが、長期に及ぶ遅延を強いられており、同国政府もその膨大なコストと融資条件に尻ごみしつつある。カラチで9月撮影(2018年 ロイター/Akhtar Soomro)

中国が掲げる「現代版シルクロード」構想の中央に位置するパキスタンでは、植民地時代に造られた鉄道路線の改修プロジェクトが、長期に及ぶ遅延を強いられており、同国政府もその膨大なコストと融資条件に尻ごみしつつある。

大都市カラチと北西部ペシャワルを結ぶ全長1872キロの鉄道路線(ML-1)改修プロジェクトは、当初予算が82億ドル(約9300億円)に上る、中国の「一帯一路」イニシアチブにおけるパキスタン最大のプロジェクトだ。

だが、同国のラシッド鉄道相は1日、債務負担を避けるため国内での鉄道プロジェクト予算を20億ドル削減すると発表。「パキスタンは貧しい国であり、多大な債務の負担には耐えられない。中国パキスタン経済回廊(CPEC)計画に基づく予算を82億ドルから62億ドルに減らした」と同鉄道相は述べた。

鉄道計画の遂行には自信を見せたものの、コストは62億ドルからさらに42億ドルまで減らしたい、と同相は強調した。

中国がインフラ整備資金として約600億ドルの拠出を約束していたCPEC計画について、8月に就任したパキスタンのポピュリスト政治家であるカーン首相は、中国からの投資に警戒感を示していた。

中国投資に対する熱気が冷めつつあるのを反映するかのように、スリランカやマレーシア、モルディブといった他のアジア諸国でも、前政権が締結した中国との契約に懸念を示す新政権が誕生している。

パキスタンの新政権は以前より、中国一帯一路関連の契約全般の見直しを望んでいた。政府当局者はこれらの契約について、交渉が十分ではなく、コストが高すぎるか、中国側に有利になりすぎているという懸念があると述べている。

だが、同国政府にとっての不満は、中国政府が再検討に応じる姿勢を見せているのは未着工のプロジェクトに限定されている点だ、とロイターの取材に応じたパキスタン政府高官3人は語った。

中国外務省は先月、両国とも「すでに竣工したプロジェクトが正常に運営されるよう、また建設中のプロジェクトがスムーズに進捗するよう」それぞれの一帯一路プロジェクト推進に注力している、と述べた。

パキスタンの政府当局者は、引き続き中国マネー誘致には力を入れているものの、コストと条件をより重視したいと語る。CPECについても、カーン首相の政策綱領に沿った社会発展を実現するプロジェクトを中心とするよう、方向転換を進めている、と述べた。

CPEC再調整に向けたパキスタンの情勢は、脆弱な同国経済を浮揚させるために中国融資に依存していることで複雑になっている。

また、往年の同盟国である米国との関係に亀裂が目立つ中で、パキスタン政府の交渉力も弱まっている。さらに、経常収支を巡る危機も、国際通貨基金(IMF)による救済につながる可能性が高く、歳出削減を要求されかねない。

パキスタン政府閣僚は、「われわれの側にも言いたいことはあるが、中国以外にパキスタンへの投資を進めている国はない。われわれに何ができようか」とロイターに語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中