タイ洞窟の少年たちは見捨てられる寸前だった
3日後に始まる救出作戦に向けてタムルアン洞窟付近で準備を進める軍関係者(7月5日) Athit Perawongmetha-REUTERS
<奇跡的な救出作戦の骨格を練り上げた米空軍士官が語る緊迫の舞台裏>
成功する確率は高くない――。今年6~7月、タイ北部の洞窟に閉じ込められた少年たちの救出作戦に加わった米空軍のチャールズ・ホッジズ少佐は、そんな厳しい現実を覚悟した時期があったという。
タイの少年サッカーチームのメンバー12人とコーチの計13人が行方不明になったのは6月23日のこと。遊び半分でタムルアン洞窟に入ったものの、大雨で洞窟内の水位が上昇して、出られなくなってしまったのだ。
事故から2カ月以上がたった9月半ば、劇的な救出劇のアメリカ側指揮官を務めたホッジズと、デレク・アンダーソン米空軍曹長が、米メリーランド州で当時の苦労を記者団に語った。
ホッジズ率いる米空軍第353特殊作戦群のチームが、沖縄の嘉手納基地から現場に到着したのは6月28日の午前2時頃。すぐに状況の説明を受けたが、「事態は深刻だった」と、ホッジズは振り返る。「少年たちを発見できない可能性は非常に高いと思った」
アンダーソンたちが洞窟に足を踏み入れたとき、入り口辺りの水深はくるぶしほどだった。それが降り注ぐ雨で1時間もしないうちに約60センチも上昇した。
それから18日間、ホッジズのチームは米空軍第31救難飛行隊、タイ政府、そしてイギリスやオーストラリアの関係者からなる多国籍チームの一員として、救出計画を練り、実行した。
当初、多国籍チームは全長10キロ近い複雑な洞窟の内部について、ほとんど情報を持っていなかった。だがやがて、タムルアン洞窟の構造をよく知るイギリス人ダイバーのバーノン・アンズワースが、少年たちを発見。その情報が救出計画を練る上で重要なカギとなった。
「雨季終了まで待つべき」
タイ政府は一時、少年たちの救助活動は雨季が終わるまで待つべきだと考えた。だが、アメリカのチームは断固反対したという。「今やらなければ終わりだと(タイ政府関係者に)説明した」と、ホッジズは語る。「5〜6カ月後に水が引いたときには手遅れだ。一部でも遺体が見つかればラッキーだろう」