どん底ウッズが放ったリカバリーショット
Prodigy’s Comeback
おなじみの赤の勝負服で回った8月の全米プロ選手権最終日、私はギャラリーの1人である水泳界の「怪物」マイケル・フェルプスのすぐそばを歩きながら、何度もウッズのピンチを目の当たりにした。いや、ほとんどピンチしか見なかった。前半は一度もフェアウエーをキープできず、後半もティーショットが右に左にぶれた。だが、それを信じられないようなスーパーショットで挽回する。
ため息と驚嘆、ピンチとチャンスが目まぐるしく入れ替わる展開は、ゴルフコースよりフットボールスタジアムにふさわしそうな熱狂を呼んだ。大会の主役は、安定したプレーで今季メジャー2勝目を挙げたブルックス・ケプカでなく、間違いなくウッズだった。
逃げ切ったツアー選手権も、最終日の15、16番ホールで連続ボギーをたたき、2位との差がみるみる縮まった。17番もやはり窮地に立った。まるで演出のように見る者をハラハラさせ、勝利の瞬間を盛り上げた。
もちろん、全盛期とは置かれた状況が違う。10年前、ツアー屈指の飛距離を誇ったウッズも今や数々の故障歴のある42歳だ。全米プロ選手権を制した28歳のケプカに「以前、一緒に練習で回ったときも340~350ヤードは飛ばしていた。そんな選手が真っすぐ打ったら、上回るのは難しい」と脱帽したように、羨まれる存在から羨む立場に変わりつつある。
世界中の多くの42歳と同じく、ウッズも若き日とは違う方法で、自分に憧れて育った世代の突き上げに対処しなければならなくなった。復活優勝がまた次の優勝を保証するわけではない。けがの再発というリスクと付き合いながら、戦い続けなければならない。
しかし今後付きまとう、そうした危うさがまた魅力になるのかもしれない。全盛期にもなかった魅力だ。
圧倒的な強さを誇ったウッズにファンは憧れはしても、自己を投影することは難しかっただろう。神業のようなショットを繰り出し、最年少記録を次々と更新するカリスマは、ただただあがめるべき存在だった。
だが私生活のトラブルが明るみに出され、苦境と隣り合わせになった今は違う。自分と同じように情けなく、弱さを抱えた人間であることを誰もが知った。不完全だからこそ見守る価値があり、もろさがあるからこそ応援したくなる――。そんなファン心理もあるのではないか。
矛盾するようだが。
<本誌2018年10月09日号掲載>
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