最新記事

スポーツ

どん底ウッズが放ったリカバリーショット

Prodigy’s Comeback

2018年10月6日(土)13時30分
芹澤渉(共同通信ロサンゼルス支局記者)

おなじみの赤の勝負服で回った8月の全米プロ選手権最終日、私はギャラリーの1人である水泳界の「怪物」マイケル・フェルプスのすぐそばを歩きながら、何度もウッズのピンチを目の当たりにした。いや、ほとんどピンチしか見なかった。前半は一度もフェアウエーをキープできず、後半もティーショットが右に左にぶれた。だが、それを信じられないようなスーパーショットで挽回する。

ため息と驚嘆、ピンチとチャンスが目まぐるしく入れ替わる展開は、ゴルフコースよりフットボールスタジアムにふさわしそうな熱狂を呼んだ。大会の主役は、安定したプレーで今季メジャー2勝目を挙げたブルックス・ケプカでなく、間違いなくウッズだった。

逃げ切ったツアー選手権も、最終日の15、16番ホールで連続ボギーをたたき、2位との差がみるみる縮まった。17番もやはり窮地に立った。まるで演出のように見る者をハラハラさせ、勝利の瞬間を盛り上げた。

もちろん、全盛期とは置かれた状況が違う。10年前、ツアー屈指の飛距離を誇ったウッズも今や数々の故障歴のある42歳だ。全米プロ選手権を制した28歳のケプカに「以前、一緒に練習で回ったときも340~350ヤードは飛ばしていた。そんな選手が真っすぐ打ったら、上回るのは難しい」と脱帽したように、羨まれる存在から羨む立場に変わりつつある。

世界中の多くの42歳と同じく、ウッズも若き日とは違う方法で、自分に憧れて育った世代の突き上げに対処しなければならなくなった。復活優勝がまた次の優勝を保証するわけではない。けがの再発というリスクと付き合いながら、戦い続けなければならない。

しかし今後付きまとう、そうした危うさがまた魅力になるのかもしれない。全盛期にもなかった魅力だ。

圧倒的な強さを誇ったウッズにファンは憧れはしても、自己を投影することは難しかっただろう。神業のようなショットを繰り出し、最年少記録を次々と更新するカリスマは、ただただあがめるべき存在だった。

だが私生活のトラブルが明るみに出され、苦境と隣り合わせになった今は違う。自分と同じように情けなく、弱さを抱えた人間であることを誰もが知った。不完全だからこそ見守る価値があり、もろさがあるからこそ応援したくなる――。そんなファン心理もあるのではないか。

矛盾するようだが。

<本誌2018年10月09日号掲載>

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中