最新記事

キャッシャーレス

レジなしコンビニ「Amazon Go」レポート あまりにスムーズで戸惑う人続出

2018年10月12日(金)15時30分
後藤文俊(アメリカ流通コンサルタント)

スピードショッピングにもチャレンジしたこともある。入店のチェックインから商品を掴んでゲートの外にでるチェックアウトまで、猛スピードで行ったのだ。QRコードをかざしてゲート・オープンと同時に全速ダッシュし、反対側にあるサンドウィッチを掴んで、猛スピードでゲートの外にひきかえす行為だ。チェックインからチェックアウトまで3秒程度だった。チェックインでドアが開くため若干の時間ロスとなったが、それでも5秒ぐらいだったと思う。Amazon Goアプリに示された滞在時間は7秒だった。ギネス級に短い買い物スピードでもジャスト・ウォーク・アウトで買い物が認識されるのだ。あまりにも革新的すぎる店舗であるため買い物客が戸惑う様子も報告されている。「本当に商品を持って出ていってもいいの?」と尋ねる人が後を絶たないのだ。

無人ストアではない。日本のコンビニよりもスタッフは多い

よく勘違いされるのだが、Amazon Goは無人ストアではない。日本のコンビニエンスストアよりも、むしろスタッフの多さが際立っている。ゲート前には慣れないお客のためにスタッフが配置され、1号店にあるアルコール売り場には買い物客のIDをチェックするスタッフが常駐している。1号店ではサンドウィッチやブリトーなどを調理するスタッフが10人以上もいるのだ。なお最短では数秒間で買い物を終えることができるため、ピーク時には商品補充が追い付かないほどだ。皮肉にもAmazon Goはレジ係がいないが、その分、補充スタッフが余計に必要となるのだ。

3,000店舗展開で、イギリスにも進出?

ニュースサイトのブルームバーグは9月、Amazon Goが数年で3,000店舗展開になると報じた。内部の情報筋からの話として、アマゾンは今年末までにAmazon Goを10ヵ所オープンし、2019年末に大都市圏を中心に50ヵ所を展開、2021年までには3,000店舗の展開を計画している。なおブルームバーグはAmazon Goの3,000店舗展開についてアマゾンの広報担当者に回答を求めたが、コメントは拒否されたとしている。またイギリスのサンデータイムズは10月8日、アマゾンが100坪(4,000sqft)〜140坪(5,000sqft)の小売りスペースを多数探していることを報じた。Amazon Goのトレードマークをイギリスでも取得しており、海外にも出店するのではないかとの観測だ。

さて、筆者は先月、シアトルにある2号店と3号店に行く機会があった。40坪の2号店は正面入り口から横に広いタイプ、3号店は入り口から奥に深いフォーマットだ。どちらの仕様も1号店と変わりはない。ただ、大きく変わったことといえば買い物バッグが有料になったことだ。以前まで無料で配布していたオレンジ色のエコバッグが99セント、ハンドル部分がついた大きな紙袋が5セントになっている。バッグの買い方は、Amazon Goアプリで入場時のコードを開くと、右下に緑色のバッグマークがでてくる。それをタップし、バッグの数量を入力するだけだ。農家の無人販売と同じで、自分で買い物を申告する「オーナーシステム(Honor System)」となっている。

goto1112f.JPG買い物バッグが有料化した2号店

画期的だが、多店舗展開も2桁どまりの店舗数になるのでは...

近所のビジネスマン以上に観光客が多い1号店ではお土産代わりにエコバッグをゴッソリ持っていく方も少なくない。毎日、数千人規模での来店客数だとコストも相当なものになる。したがってバッグの有料化に踏み切ったのだ。Amazon Goは天井にあるセンサーなどハードウェアだけでも開店時に100万ドル以上の費用になるとみられている。ゲートにいるスタッフやひっきりなしに補充するスタッフなど人件費もすくなくない。一方で販売している商品のほとんどが10ドル以下だ。Amazon Goは画期的な店舗だが、黒字化は難しいのではとみられているのだ。したがってエコバッグも無料とはいかなくなっている。

2年間で3,000店を展開するには毎日4店舗のオープンが必要となる。チェーンストアのようなスケールメリットもいかせない。人件費以上にセンサーやカメラなどのハードウェアを圧縮する必要のあるAmazon Goは黒字化への道のりも遠い。結局、多店舗展開も2桁どまりの店舗数になるのではと推察している。

アマゾンが2年前に公開した動画


○執筆者
後藤文俊(アメリカ流通コンサルタント)
35年近くの在米生活の視点をもとにした流通コンサルタント。「使う」「買う」「返品する」「調理する」「食べる」など実践リサーチを身上とし、数多くの米国小売業の成功・失敗事例から得た知見や洞察で、クライアントの売上・利益増を目的にコンサルティングを行う。「激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ」で最新情報を発信している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中