クルマを「愛車」と言う豊田社長 vs「単なる商品」と呼ぶ孫社長 水と油を結んだトヨタの危機感
10月4日、トヨタ自動車とソフトバンクの2大企業が、モビリティサービスの構築に向けて初めて本格的に手を組んだ。写真は都内の記者会見場で握手を交わすトヨタの豊田章男社長(右)とソフトバンクグループの孫正義社長(2018年 ロイター/Issei Kato)
トヨタ自動車とソフトバンクの2大企業が、モビリティサービスの構築に向けて初めて本格的に手を組んだ。
自動車は「コモディティ(単なる商品)」になると言ってはばからないソフトバンクグループの孫正義社長。「愛車」と呼んでその価値にこだわるトヨタの豊田章男社長。「水と油」にも例えられる両社が歩み寄った背景には、大きく変化する自動車業界での生き残りを目指す豊田社長の危機感があった。
筆頭株主はすべてソフトバンク
「未来の種を見抜く先見性、目利きの力がある」――。ソフトバンクについて、豊田社長は4日の提携会見でこう評価し、トヨタの未来に「必要不可欠な会社になっていた」と指摘した。世界のトヨタにそこまで言わしめた孫社長は「王者中の王者が気軽に心を開いてくれた」と応じた。
「愛車」という表現を多用する豊田社長は、今日の会見でも「数ある工業製品のなかで『愛』がつくのは車だけ。どんなAI(人工知能)が搭載されても、移動手段ではなく、エモーショナルな存在であり続けることにこだわりたい」と付け加え、未来のモビリティ社会に馳せる自らの思いを披露した。
今年1月に「車をつくる会社」から、移動に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニー」への転換をめざすと宣言したトヨタ。その布石を打つため、世界の配車サービス大手に対する出資や提携に次々と動いてきた。
トヨタは2016年に米ウーバーに出資したほか、今年1月、商用電気自動車(EV)「イーパレット」の展開でもウーバー、中国の配車の滴滴出行などとも提携。今年6月には東南アジア最大手のグラブに出資した。
しかし、提携した各社はすべてソフトバンクが筆頭株主になっている。ソフトバンクとの歩み寄りなしに自社の未来図を描きにくいという現実がトヨタの前に立ちふさがっていた。
トヨタの友山茂樹副社長によると、今回の提携はトヨタからソフトバンクに声をかけ、「両社の若者が中心となり、半年前から検討を進めてきた」。「交通事故をゼロにしたい」という将来ビジョンが両社共通だったという。
提携を持ちかけた経緯をみると、新市場の展開力に悩むトヨタの焦りもにじむ。会見のライブ中継を視聴していた他の自動車メーカー幹部からは「トヨタ以外の自動車メーカーとソフトバンクが深い仲になる前に、少しでも距離を縮め、仲間に取り込んでおこうという印象だった」と語った。
一方のソフトバンク。今年5月、自社の投資ファンドを通じて米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の自動運転車部門GMクルーズへの出資し、最終的に約2割の株式を握ると発表しており、16年からはホンダ<7267.T>ともAI(人口知能)分野の共同研究で協力している。ソフトバンクにとって、トヨタは同サービス分野での数ある提携先のひとつに過ぎない。